20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 駅から歩いて十分くらいだろうか。
 赤月君が見つけてくれたイタリアンレストラン「アルコバレーノ」に着く。
 虹の絵が描かれた看板。ビルの一階にあるそのお店は、まだお客さんは少ないみたいだった。
 案内された席は窓際の席だった。クラシックかな。静かな音楽が流れていて、スタッフの人、メイド服みたいな服を着ている。
 向かい合って座り、私たちはメニューをひろげた。
 パスタにピザ。
 ランチタイムだからかメニューが限られている。
 メインメニューにサラダと飲み物がつくらしい。プラス三百円でデザートもつく。
 デザートのケーキの写真見ているとすっごくおいしそうに見えてくる。チーズケーキとティラミスいいな。

「どれにしよう……」

 メニューを見ながら悩んでいると、赤月君が言った。

「ヒスイちゃん、アレルギーとかある?」

「ううん、ないけど」

「けっこうピザ大きいからさー」

 なんて言って、赤月君は笑顔になる。
 それはこの地域あるあるだ。ピザとかパスタ、二人前くらいあるのが当たり前だった。
 都内のお店でピザとか見ると、その小ささに驚いた記憶がある。
 私も笑って頷く。

「だいたいそうだよねー。大きいからシェア当たり前だし」

「そうそう、だから聞いたんだけど。俺、ピザにしようと思って」

 決めるの早い。私まだ、パスタにするかピザにするか決まってないのに。
 私は内心慌てながらメニューを見つめた。
 ピザはマルゲリータに四種のチーズピザ、きのこのピザ、ミックスピザがある。
 悩んだ末、私はミックスピザを指差す。

「私、これにする」

「わかった。俺はきのこのピザにするよ」

 それに飲み物を決めて、スタッフさんを呼び、注文を済ませる。
 スタッフさんが去り、私たちだけの時間が訪れて私はどうしようかと思いながらちらっと、赤月君の顔を見た。
 昔の面影はあまりない。
 あまり外に出ていないのかな、けっこう色が白い。前髪に白いメッシュなんかいれちゃって、妙におしゃれに見える。
 色々言いたいことが頭に浮かぶけど、何を口にしていいのかわかんなかった。
 昔、私のこと嫌いって言った割にはなんだか赤月君、私と再会した事、嬉しそう。
 それが不思議で仕方なかった。
 赤月君は水を飲んだ後言った。

「まさか俺がよく行くお店で再会できるなんて夢みたいだよ」

「あ、うん。そうだね。私も驚いた」

 そもそも地元だし、会う可能性は低いもののあるはあった。
 でも私の中で赤月君はとうに想い出の奥底に沈んでいたのよね。
 もう会うことはないと思っていた。だから私の罪も忘れていた。
 一番の驚きは、赤月君が今もプラモを作っていることだ。
 中高でもいっしょだったけど、そんな話、全然していなかったし。
 私はグラスを手に取って彼に尋ねた。

「けっこうお店には来るの?」

「うん、塗料とかプラモ買いに。そういうの扱ってるお店、どんどん減ってて。ガイアカラーなんて特にレアだし」

 と、語り出す。
 ガイアカラー……?
 何がなんだかさっぱりわからず思わずキョトン、としてしまう。 
 そんな私の疑問に、赤月君が答えてくれる。

「ガイアノーツっていう会社がだしてる塗料だよ。タミヤはわりと売ってるところあるけど、ガイアカラーは売ってるところ少ないんだよねー」

 タミヤは聞いたことある。でもガイアノーツって初めて聞いたから、よほど珍しいんだろうな。
 私は頷きながら答えた。

「そうなんだ。じゃあけっこう顔、合わせるかもね」

 そんな私の言葉に、赤月君は何度も頷く。

「そうだよねー。俺すっごく嬉しい。もう会うことないかと思っていたし」

 その言葉に私の心臓がギュッと握りしめられたような感覚をおぼえる。
 五歳から二〇歳まで。細いもののなんとか繋がっていた縁。
 でも成長してぷつり、と切れてしまっていた。
 同窓会もないからよほどのことがない限り、私と赤月君が再会することはなかっただろうな。
 私も苦笑して、小さく頷く。

「そうだね。私もそう思ってた」

「いつの間にかヒスイちゃん、グループラインから消えてたんだもん」

 そう言った赤月君の表情は一瞬曇る。
 それについては弁明のしようもない。グループラインの整理、しちゃったから。

「だって全然動いてなかったから抜けちゃったんだよね」

「あぁ、わかる。俺もけっこうそういうの消したし」

 そう言ってもらえるとちょっとほっとする。自分だけじゃないんだって。
 
「相原とかもう結婚したらしいよ」

「え、うそまじで? 私ほんとうに誰とも連絡取ってないから全然知らなかった」

 なんていう、同期生の近況とか話しているうちにメニューが来る。
 最初にサラダ。
 食べ終わった頃にメインのピザが来た。
 やっぱり大きい。二十五センチくらいはあるんじゃないかな。
 テーブルの上がけっこうキツキツに見えてしまう。
 ピザを見て私は呟く。

「やば、大きい」

「あはは、確かに。ねえ写真撮っていい?」

 言いながら、赤月君はスマホを構える。

「え? うん、いいけど」

 言いながら私はちょっと身を引く。

「毎日撮ってるんだよねー」

 と言いながら、赤月君はピザにスマホを向けて写真を撮った。
 複数回ひびくシャッター音。いったい何枚撮ってるんだろう。
 満足したのか赤月君はスマホをテーブルの端において、ピザカッターを手に持ちこちらを見た。

「じゃあ食べよっかー。俺、ピザ切るね」

「あ、ありがとう」

 そして赤月君はピザにカッターを押し当てた。