20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 赤月君ははしゃぐような声で言った。

「ってことは、ヒスイちゃんもこの近く?」

「う、うん。ここから十分くらいのアパート……」

 戸惑いの声で言い、私はアパートがある方向を指差す。

「そうなんだ。てっきり実家から通ってるのかと思った」

「だって実家からだと、電車少ないし。車だと時間かかるしずっと運転してないから不安だし……」

 内心あたふたしながらそう答えると、赤月君は納得したように頷く。

「確かにそっか。電車、一時間に一本だもんね。車だとあのお店まで三十分以上? 混んでたらもっとかかっちゃうしねー」

「うん、駐車場代も馬鹿にならないし。こっちでアパート借りたほうが楽だなーって思って」

 そう答えて私は内心の焦りを誤魔化すように笑う。
 どうしようこれ、私まだ、赤月君と話す覚悟、できていないのに。内心大パニックだ。
 そんな私の想いなど知らない赤月君は、始終幸せそうだった。
 なんかすごい温度差だ。
 赤月君は顎に手を当てて言った。
 
「すっごい偶然だけど、でもこの辺住む理由わかる。翠玉駅まで一駅五分だし、そのわりに家賃はそこまで高くないし。スーパーもドラストもあるし。住みやすいんだよね。だから俺もこの近くのマンション、選んだから」

「そうなんだよね。実家に比べたらこっちの方がずっとお店も多いし」

 言いながらも私の顔、きっとひきつっている。
 何してるんだ私。もういい大人だろ、シャキッとしろよ。
 自分にそう言い聞かせつつ私は自分のバッグについている缶バッチが入ったケースに手を伸ばした。
 その時、駅のホームに電車が来るというお知らせが流れる。
 しばらくして電車がホームに入ってきて、電車の扉が開き降りる人の姿がちょっとだけある。
 赤月君と私は一緒に電車に乗り、空いた車内で当たり前だけど並んで椅子に腰かけた。
 ちょっと間を開けて座ろうと思ったのに、そういうわけにはいかなくって。
 赤月君の匂いを感じるくらい近い。
 この匂い、香水だよね? 赤月君そういうのするんだ。
 高校生の時は全然そういう気配、なかったのに。
 ドアがしまる音がして、電車が動き出す。
 見慣れた景色なのに、なんだか異質に見えてくるのはきっと、赤月君が隣にいるからだ。
 私はちらり、と彼を見る。
 すると赤月君はこちらを見て、すっごい笑顔で言った。

「ぶなんにピザとパスタのお店にしたんだけど、大丈夫?」

「え? あ、うん。大丈夫。ありがとう、お店選んでくれて」

 そう答えて私は微笑む。
 お店を選んでもらって文句なんて言うはずがない。
 それに翠玉市はイタリアンのお店が多いし、私が選んだって同じ結果になると思う。
 赤月君は頷き答える。

「選ぶの楽しかったよ。人とごはんいくのは久しぶりだし」

「同期とは会ってるの?」

「会ってないよー。皆バラバラになっちゃったし。こっちに残っている人、少ないからね」

 そう言って、赤月君は苦笑を浮かべた。
 翠玉市は地方都市だ。
 都内まで約二時間ほどかかる距離にある。
 決して不便じゃないけど、たいてい大学進学を期に実家を離れてそのまま戻ってこない。
 電車はすぐに翠玉駅に着く。すいしょうの池駅の周りは一戸建ての住宅街が多かったけれどここにくると一気に背の高いビルが増える。
 電車がホームに滑り込み、ドアが開く。
 私は赤月君と電車を降りて、階段を上り改札のある階へと向かった。
 時間が経ってさすがに私の気持ちは落ち着いてくる。
 そこで私は改めて赤月君を見る。
 明るく染められた髪に、白いメッシュ。スマホに残っている写真と比べてもほんと、別人みたいだ。
 なんて言うんだろう、垢抜けた、っていう表現が妥当なんだろうか。
 顔つきもすっかり大人だ。
 歩きながら私は尋ねた。

「なんで白いメッシュいれてるの?」

「え? んー、なんとなく?」

「何となくでメッシュ、いれるの?」

「いれるよ、たぶん」

 そう言いながらも赤月君は首をかしげている。
 深い理由はないのね。
 赤月君は私の頭に目を向ける。

「ヒスイちゃんだって、髪の毛染めてるよね」

「うん、まあ。でも明るすぎる色はダメだから、これが限界なんだけどねー」

 言いながら私は頭に手をやった。
 接客業でも最近は髪色とかネイルとか自由になってきたけど、うちの職場はまだそこまできていない。
 ネイルしている子はちらほらいるけど、本来は派手なネイルは禁止されている。

「そっかー。ヒスイちゃんと最後に会ったの、成人式だよね。その時は髪の毛黒かったと思うけど」

「赤月君だって黒かったでしょ。私、この間その頃の写真、見たんだから」

 そう私がちょっと強めな口調で言うと、赤月君は楽しそうに笑って頷く。

「そうだねー。髪色が変わったのはお互い様だよね」

「当たり前でしょ、何年経ってると思ってるの?」

 すると赤月君は切なげな顔になる。その表情にちょっとドキリ、としてしまう。
 なんでそんな顔するんだろう。
 でもすぐに笑顔になって言った。

「成人式以来だから八年かぁ。けっこう前だよね」

「そうでしょ。それだけあれば変わるわよ、色々と」

 言いながらも私はさっきの赤月君の表情が、ちょっと気になった。