20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 十月三十日木曜日。
 約束の日が来た。
 その日まで、覚えることがすごく多くて目が回りそうだった。
 エンタメコーナーではゲームやおもちゃの他、DVDも扱っている。前はCDも扱っていたらしいけど、縮小しちゃったらしい。
 ゲーム機もスイッチにプレイステーションとかあるし。おもちゃはすごい数がある。
 お客さんに聞かれても、私は何にも答えられなくて他の従業員に頼ってばかりだった。

「あのーゲームの事で聞きたいんですけど」

「す、すみません、少々お待ちください」

 無線で他のスタッフを呼んで対応してもらうことが多くて、すごく申し訳ない気持ちになった。
 ただでさえ人、少ないのに。
 ゲームの説明くらいできる様にならないとだけど、なかなか難しい。
 時間がある時に資料を見て勉強はしているんだけど、理解するには時間がかかりそうだった。
 入荷に関する問い合わせもすごく多い。知らない言葉がばんばんでてくる。

「Nゲージって扱ってますか?」

「この商品、店頭にないんですけどいつ入荷しますか?」

 などなど。
 おかげでたぶん私、今まで興味がなかったおもちゃの事、詳しくなれそうだ。
 大半の商品は問屋さんを通って入荷するけれど、その全てで見た会社の名前が「ハッピープラネット」だった。
 ゲームもおもちゃもDVDも扱っているらしく、おもちゃの製作や映画の製作なんかもしているらしい。
 すごいなハッピープラネット。
 調べてみたら、私が昔好きだったアイドルグループが出ている映画の製作もしていたし。
 そんな怒涛の日々を乗り越えて迎えた約束の日。
 時間は今、午前十時くらい。
 私は小さなテレビをつけて、動画を流す。
 見るのはもちろん最近の最推し、つばき坂二十六の曲だ。
 結成して五年くらいかな。名前からすると二十六人いそうに見えるけど、もっといる。
 二十六という数字に深い意味はないらしい。
 私の部屋の棚に飾られたアクリルスタンドにチェキ。眼鏡をかけた黒髪の清楚系美少女。それが私の最推しである七瀬みつきちゃんだ。イメージカラーは紺色で、眼鏡や持ち物に紺色の物を選んでイメージを作っている。
 もっと活躍してほしいような、してほしくないような。
 都内のお店にいたときは行ける限りのチェキ会や握手会に参加した。おかげでみつきちゃんに認知されていたんだよね。そもそも女性ファンが少ないせいもあるんだけど。
 まだメジャーデビューしていないからファンはそこまで多くないし、距離も近い。
 みつきちゃんと撮ったチェキは、私にとって宝物だった。
 私は着替える前に、みつきちゃんのアクスタに話しかける。

「みつきちゃん、私ひさしぶりに幼なじみに会うんだ」

 って。
 もちろん答えは返ってこないけど、がんばって、っていう声が聞こえた気がする。
 私は着替えをしようとクローゼットを開けた。
 ひざ下まであるスカートに、黒と明るい茶色のボーダーのニット。もうすぐ十一月だし、今日、ちょっと寒いだろうな。
 約束の時間は十一時半。ってことは、十一時前には家を出ないといけない。
 私は胸元まで伸びた髪をシュシュでまとめて、化粧をする。
 普段より少し濃いメイク。二重の大きな目には黒いアイライン入れて、マスカラもばっちり塗って、眉マスカラも使う。
 鏡の前で全身を見て、うーん、って思わず呟く。
 世の中のアラサーって何着てるんだろう。
 最近服装の正解がわからない。
 好きな物を着たらいいんだろうけれど、何が好きなのかもよくわからなくなってきた今日この頃だった。
 服はこれでよし。
 ショルダーバッグにお財布とメイク道具を詰め込んで、準備完了かな。
 バッグにはもちろん、みつきちゃんの缶バッチをいれた透明のケースをぶら下げている。
 推しとはいつも一緒の精神だ。
 時計を見ると、家を出るのにちょうどいい時間になっていた。
 ひさしぶりに会う赤月君。どんな話するのかな。
 あー、変に緊張してきて背中に汗、かいてるかも。
 私は薄手のコートを羽織り、缶バッチが入ったケースに触れる。これは御守りみたいなものだ。ただの缶バッチだけど、それ以上の意味が私にはある。
 私の中で期待と不安がひしめき合っているけどきっと大丈夫。
 そう自分に言い聞かせて私は外に出た。
 すると秋の凍てつく風が吹いてぶるり、と震えてしまう。マフラー欲しいなぁ。買わないとーって思って結局毎年買わずに冬を終えてしまう。
 私は部屋の鍵をかけて、駅へと向かって歩き出した。
 平日の地方都市。人通りは少なくって車がすごく多い。
 最寄駅はすいしょうの池駅だ。名前の通り、少し行くと池のある公園がある。桜の木が植わっていて、春はとても混雑する。
 高校生の時、皆でお花見に行ったっけ。
 もちろんそこに赤月君もいた。
 そんな過去を思い出して私は駅の改札にたどり着く。
 次の電車、十一時十二分。あれに乗れば十一時二十分より前にはつくからちょうどいいな。
 私は定期のICカードを改札でタッチして、中に入った。
 階段を下りてホームに立つと人影は少ない。
 というか数人しかいない。
 冬の風が吹き、皆寒そうに身を縮めている。
 ざっと見回した時、私は自分の目を疑った。
 紺色の綿パンに、ベージュのコート。
 明るい茶髪に特徴的な白いメッシュ。
 あれはどう見ても赤月君だ。
 彼はイヤホンをしてじっと、正面を見て電車を待っているようだった。
 なんでこんなところにいるの? うそ、最寄駅一緒?
 驚きすぎて目を大きく開いていると、彼がふっとこちらを見る。
 そして確実に視線が絡んだ瞬間、赤月君はぱっと明るい顔になって慌てた様子でイヤホンを耳から外した。
 それを無造作にコートのポケットに放り込むと、まるで子犬のような顔をしてこちらに近づいてくる。

「ヒスイちゃん!」

 その声はまるでお気に入りのおもちゃを見つけた子供のように明るく弾んでいる。
 
「え、あ、なんで赤月君、こんなところに……?」

 思わず指をさしながら言うと、彼は私の目の前に立って文字通り、にぱあ、と可愛げのある笑みを浮かべる。

「だって、この駅の近くのマンションに住んでいるから」

「嘘でしょ?」

 そんな偶然、怖いんだけど。
 これもう偶然通り越していないかな。と思いながら、にこにこ顔の赤月君をじっと見つめた。