20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 連れていかれた先は、聖那君の寝室だった。天井の白い照明がちょっと眩しい。
 そもそも家族向けの部屋だからだろうか、寝室もちょっと広めだし大きなベッドが置かれている。 
 
「何で寝室……」

 不思議に思いつつ私は室内を見渡して言った。リビングと同じような緑のカラーリングのカーテンや布団。
 クローゼットの扉。そしてその部屋の棚にただひとつ飾られたプラモ。
 透明なケースに入ったそのプラモの形は、「攻殻騎士シュリエッタ」の白騎士ユーリアのものだった。
 彼はそのケースの前に立ち、愛おしそうな顔でそのプラモを見つめる。

「これ白騎士ユーリアだよね。でも……緑色してる」

 そのプラモは緑色、というよりも翡翠色、と言った方がいいかもしれない。
 白いはずのベースの色が翡翠色に塗られて、緑色のストーンなどで飾られている。
 まるで宝石のようなプラモだ。

「……すごい綺麗」

 ため息交じりに言う私に、聖那君は静かに告げた。

「これ、あの日壊れたプラモだよ」

「え、嘘?」

 驚いて私は聖那君を振り返る。すると彼は懐かしそうに目を細めて頷いた。

「ほんとうだよ。あの時のプラモ、足とか腕とかもげたけど、それはすぐくっつけられるものだったんだよ。でも折れたパーツは直せなくって。親には捨てて新しいの買うって言われたんだけどね、それはどうしても嫌だったから、俺、ずっととっておいてどうすれば折れたパーツ直せるか調べたんだよね」

「な、なんでそんなことしたの?」

 驚く私に、彼は微笑み告げた。

「だって、このプラモじゃないと意味がないから。ヒスイちゃんが落っことして壊れたのは確かだけど、こうして直したから大丈夫だよって、ずっと言いたかったんだ」

「あ……」

 私は緑色のプラモへと再び目を向ける。
 あの日私が壊したプラモ。綺麗に元通りになるとどこか、元の色などわからないほど美しい装飾をされて飾られている。
 まるで、神様の像のように。
 プラモをここまで飾ったのってつまり……

「私のために……?」

「うん。この直したプラモみたいに、俺たちの関係だっていくらでも構築できるよって伝えたくって」

 そのためにこんなに綺麗につくるのすごくないかな。
 語彙力無さ過ぎてすごいしか言えないのがもどかしい。
 私は胸に手を当てて、小さく息を吐く。
 プラモみたいに、私たちの関係も……
 聖那君の言葉を頭の中で繰り返してそして、私は聖那君の方へと顔を向ける。
 聖那君が愛おしそうに私を見ている。
 きっと私も同じような顔、しているだろうな。

「聖那君……」

 震える唇から漏れ出た声は、自分でも驚くほど甘い響きをまとっていた。

『迷うことなかれ』

 というおみくじの言葉が頭の中をよぎる。
 私は胸に置いた手をぎゅっと握り、口を開こうとした。
 でもそれよりも先に、聖那君の言葉の方が早かった。

「ヒスイちゃん、ずっと好きだよ。小二のあの日より前からずっと。だからあの日、出来上がったばかりのプラモ、見てもらいたくってお母さんに止められたけど部屋に連れていって見せたんだよ」

 そう語る聖那君の顔はこれ以上にないほどの幸せそうな顔に見えて、私は思わず息をのむ。
 聖那君が喜んでいる姿を見ると私まで幸せを感じて、顔がゆるんでしまう。
 
「そう、だったんだ……」

 小さく呟く私に、聖那君は大きく頷き、そっと私の肩にそっと手を置く。
 その手はわずかに震えているような気がした。
 聖那君、緊張しているのかな。
 息を吸うと彼の匂いで肺が満たされて身体に纏わりついてくる。
 ドキドキする私に、聖那君はひどく甘い声で告げる。

「これ見せられる日、ずっと夢見ていたんだ。俺からヒスイちゃんに連絡しようって思っていたんだけどね。あの日再会できて俺、すごくうれしかったんだから」

「聖那君……」

 私のためにプラモをこんなに綺麗に直して、ずっと大切に持っていたんだ。
 この気持ち、どう言い表したらいいんだろう。
 嬉しいでも足りない気がする。
 私は聖那君の顔を見て笑顔で答える。

「私もずっと好きだよ。だからあの日『嫌い』って言われた時、世界が終わると思ったんだから」

 やっと言葉にできて、一気に気持ちが楽になる。
 二十年以上も前からずっと両思いだったってことだよね、これ。
 なのにすごい遠回りをしてしまった。
 
「ヒスイ」

 余裕のない声で名前を呼ばれたかと思うとばっと、身体を抱き締められてしまい、私は目を見開く。
 そして目が合い、顔が近づいてくる。

「聖那……」

 そんな私の声を奪うかのように唇がそっと触れた。
 すぐに顔は離れ、聖那君の切なげな顔が視界いっぱいに広がる。

「愛してるよ、ヒスイ」

 面と向かって言われると激しく恥ずかしい。
 私はじわじわと身体中に幸せがひろがるのを感じながら、彼の背中にそっと手を回して答える。

「私もだよ、聖那」

 言ってしまった。私、聖那って呼び捨てにしてしまった。
 そんな私の身体を抱きしめた聖那は、すっと目を細めて唇を重ねた。
 今までの空白を埋めるかのように長い口づけのあと、私たちは顔を見つめて笑い合った。

 終