シフトを確認して、月末ならと私は赤月君に、十月三十日木曜日に出かけようと連絡した。
翠玉駅の改札前で待ち合わせ、ということになった。
電車通勤だしちょうどいい。
私は実家には戻らず、ひとつ隣の駅から歩いて十分の場所にアパートを借りた。
実家の方は電車少ないし、通勤時間も長くなる。
ひとつ隣の駅だと電車で五分だし、家賃もそこまで高くない。
お店は駅前だから車で来るよりも電車通勤の方が楽だった。
その日、仕事を終えて家に着いたのは八時近かった。
おかしい、帰宅時間は前の職場と同じくらいなのに。
私はリビングの座椅子に文字通り伸びて動けなくなっている。
「すっごい疲れた」
この疲労感、お正月でしか味わったことないと思う。
だって黒物のコーナーじゃレジに何十人も並ぶとかそうそうないもの。
すごい人の数だったなぁ。
「しかもあれ、来月もあるって事よね」
ってことは、毎月がお正月セールってこと?
怖い、エンタメコーナー。
私、やっていけるかなぁ。
私とゲームの関わりと言えば、「どうぶつたちといっしょ」っていうどうぶつのゲームが大好きだからそのソフトだけはずっとやってるけど。それだけだ。
おもちゃなんて全然わかんない。
黒物コーナーとの落差、激しすぎるでしょ。
むりやり異動を申し出て、配属されたのが本社下にあるお店のエンタメコーナー。
会社的にエンタメっておまけみたいな感じで、社員が配属されてもすぐ他のコーナーに異動させられちゃって、社員が今フロア長をのぞくとひとりしかいない。
そのおかげでフロア長やその社員がしにそうだと言うことで、社員だれかいないか、となったものの誰も行きたがらない。そこに私がねじ込まれた。
不倫男を視界に入れるのもいやだったから、都内からこっちに異動になったのはよかったけど。
想像以上に大変そう。
「あー……ご飯たべないと」
そう声を出して、私は座椅子から起き上がって、着替えをしてキッチンの方へと向かった。
一LDKのアパート。
先週引っ越してきたばかりで食材とかもまだあんまり買ってないから、冷蔵庫の中身は心もとない。
だから帰って来る前にコンビニでお弁当を買ってきた。
それをレンジで温めながら、私はスマホのアルバムを開いた。
そこには十年前の写真が今も残っている。
赤月君や、他の子たちと一緒に行った遊園地での写真。友だちから送られたその写真で私と赤月君は隣に立っているけど、私はぎこちない顔をしている。
赤月君は普通に笑顔なのに。
私の友だちと赤月君の友だちが仲良くって、互いに自然と遊びに行くグループの中にはいた。
そんな懐かしい写真は何枚もある。
そして最後。成人式で撮った写真。
中高一貫校だった子たちで撮ったもので、私と赤月君は隣あっているけど、やっぱり私の表情は硬かった。
彼の大事な物を壊してしまった。しかも謝ったか覚えていない。
そのことがずっと、私の中で暗い雨を降らせている。
「もう二十年も経つのに、私、何やっているんだろ」
だからどうでもいいことにしていいわけじゃないけど、私にはこの二十年前の「罪」とどう付き合えばいいのかまだわからなかった。
翌日、日曜日。
早番で、ってことで私は今日も開店前に出勤だ。
今日もまた、暗号みたいなことをお客さんに言われるのかな。
出勤して、私はまず売り場をめぐる。
赤ちゃん向けの玩具や戦隊のおもちゃ。着せ替え人形に、恐竜や車のおもちゃ。そしてフィギュアやプラモたち。
シュリエッタのプラモの他に、戦艦や戦車、車もある。
私はそのコーナーに置かれた可愛い女の子が描かれた箱を手にした。
「すごい、こんなのプラモで作れるんだ」
フィギュアみたいだけど、自分で作ってしかもこれ、関節が動くってすごい。
私、可愛い女の子が大好きなんだ。
フィギュアとかはさすがに持ってないけど、推しの女の子アイドルのアクリルスタンドや缶バッチ、写真は持っている。
「こういうのはちょっと心惹かれるなぁ……」
「あぁ、ここにいたんだ」
そんな男の人の声が聞こえてきて、私はびくっとして声がした方を見る。
通路に立っていたのは、黒髪の、見るからに幸薄そうな男性が立っている。
「あ、鬼頭さん」
彼はここ、エンタメコーナーの男性社員、鬼頭孝介さんだ。たしか三十歳くらいだって聞いた。
なんだか疲れた顔をしている彼は、こちらにふらふらと近づいてきて言った。
「仙石さん、美プラ好きなの?」
「美プラ……?」
また聞き慣れない言葉だ。
怪訝な顔をする私に、鬼頭さんはプラモを指差して言った。
「その、今仙石さんが持ってるような女の子のプラモのこと」
「え、いや、そういうわけじゃないんですけど、これ、プラモにみえないから」
言いながら私は慌ててプラモを棚に戻す。
最初からプラモだと思っていたらたぶん手に取らなかった。
私の答えを聞いて、鬼頭さんは納得したように笑う。
「確かにそうだよねー。普通の人だとプラモだなんてこれ、思わないよねぇ」
「はい、だから驚いちゃって」
「さっきのVチューバーのやつだし、余計にフィギュアにみえるかも」
言われて私はもう一度さっきのプラモのパッケージを見る。
いわれてみるとこの子、動画サイトで見たことあるような気がする。
「そうなんだ」
「あれ、Vチューバーは興味ない?」
「んー、推しとコラボしてない限りは知らないですねぇ」
「そっかー。俺もそこまで詳しくはないし、モデラーVチューバーくらいしか見ないけど」
モデラーVチューバー?
ふたたび出てきた知らない単語に、私は思わず眉間にしわをよせて鬼頭さんを見てしまう。
「Vチューバーにそんなジャンル、あるんですか?」
私の疑問に鬼頭さんは何度も頷いて言った。
「いろんなVチューバーがいるよ。歴史ジャンルは当たり前だし、法律系やショッピングモール系とか」
「そ、そんなのあるんだ……」
なに、ショッピングモール系って。何にも想像できないんですけど?
疑問符が頭の上にいっぱい浮かんでしまう。
疲れた顔をしている鬼頭さんは、ちょっと楽しそうに言った。
「うん、それでセナ=ジェイドっていうモデラーVチューバーがいて、その人の動画はよく見ているんだよね」
「へぇ……いろんなVチューバーがいるんですね」
なんか引っかかる名前だと思いながら、私は鬼頭さんの話を流した。
翠玉駅の改札前で待ち合わせ、ということになった。
電車通勤だしちょうどいい。
私は実家には戻らず、ひとつ隣の駅から歩いて十分の場所にアパートを借りた。
実家の方は電車少ないし、通勤時間も長くなる。
ひとつ隣の駅だと電車で五分だし、家賃もそこまで高くない。
お店は駅前だから車で来るよりも電車通勤の方が楽だった。
その日、仕事を終えて家に着いたのは八時近かった。
おかしい、帰宅時間は前の職場と同じくらいなのに。
私はリビングの座椅子に文字通り伸びて動けなくなっている。
「すっごい疲れた」
この疲労感、お正月でしか味わったことないと思う。
だって黒物のコーナーじゃレジに何十人も並ぶとかそうそうないもの。
すごい人の数だったなぁ。
「しかもあれ、来月もあるって事よね」
ってことは、毎月がお正月セールってこと?
怖い、エンタメコーナー。
私、やっていけるかなぁ。
私とゲームの関わりと言えば、「どうぶつたちといっしょ」っていうどうぶつのゲームが大好きだからそのソフトだけはずっとやってるけど。それだけだ。
おもちゃなんて全然わかんない。
黒物コーナーとの落差、激しすぎるでしょ。
むりやり異動を申し出て、配属されたのが本社下にあるお店のエンタメコーナー。
会社的にエンタメっておまけみたいな感じで、社員が配属されてもすぐ他のコーナーに異動させられちゃって、社員が今フロア長をのぞくとひとりしかいない。
そのおかげでフロア長やその社員がしにそうだと言うことで、社員だれかいないか、となったものの誰も行きたがらない。そこに私がねじ込まれた。
不倫男を視界に入れるのもいやだったから、都内からこっちに異動になったのはよかったけど。
想像以上に大変そう。
「あー……ご飯たべないと」
そう声を出して、私は座椅子から起き上がって、着替えをしてキッチンの方へと向かった。
一LDKのアパート。
先週引っ越してきたばかりで食材とかもまだあんまり買ってないから、冷蔵庫の中身は心もとない。
だから帰って来る前にコンビニでお弁当を買ってきた。
それをレンジで温めながら、私はスマホのアルバムを開いた。
そこには十年前の写真が今も残っている。
赤月君や、他の子たちと一緒に行った遊園地での写真。友だちから送られたその写真で私と赤月君は隣に立っているけど、私はぎこちない顔をしている。
赤月君は普通に笑顔なのに。
私の友だちと赤月君の友だちが仲良くって、互いに自然と遊びに行くグループの中にはいた。
そんな懐かしい写真は何枚もある。
そして最後。成人式で撮った写真。
中高一貫校だった子たちで撮ったもので、私と赤月君は隣あっているけど、やっぱり私の表情は硬かった。
彼の大事な物を壊してしまった。しかも謝ったか覚えていない。
そのことがずっと、私の中で暗い雨を降らせている。
「もう二十年も経つのに、私、何やっているんだろ」
だからどうでもいいことにしていいわけじゃないけど、私にはこの二十年前の「罪」とどう付き合えばいいのかまだわからなかった。
翌日、日曜日。
早番で、ってことで私は今日も開店前に出勤だ。
今日もまた、暗号みたいなことをお客さんに言われるのかな。
出勤して、私はまず売り場をめぐる。
赤ちゃん向けの玩具や戦隊のおもちゃ。着せ替え人形に、恐竜や車のおもちゃ。そしてフィギュアやプラモたち。
シュリエッタのプラモの他に、戦艦や戦車、車もある。
私はそのコーナーに置かれた可愛い女の子が描かれた箱を手にした。
「すごい、こんなのプラモで作れるんだ」
フィギュアみたいだけど、自分で作ってしかもこれ、関節が動くってすごい。
私、可愛い女の子が大好きなんだ。
フィギュアとかはさすがに持ってないけど、推しの女の子アイドルのアクリルスタンドや缶バッチ、写真は持っている。
「こういうのはちょっと心惹かれるなぁ……」
「あぁ、ここにいたんだ」
そんな男の人の声が聞こえてきて、私はびくっとして声がした方を見る。
通路に立っていたのは、黒髪の、見るからに幸薄そうな男性が立っている。
「あ、鬼頭さん」
彼はここ、エンタメコーナーの男性社員、鬼頭孝介さんだ。たしか三十歳くらいだって聞いた。
なんだか疲れた顔をしている彼は、こちらにふらふらと近づいてきて言った。
「仙石さん、美プラ好きなの?」
「美プラ……?」
また聞き慣れない言葉だ。
怪訝な顔をする私に、鬼頭さんはプラモを指差して言った。
「その、今仙石さんが持ってるような女の子のプラモのこと」
「え、いや、そういうわけじゃないんですけど、これ、プラモにみえないから」
言いながら私は慌ててプラモを棚に戻す。
最初からプラモだと思っていたらたぶん手に取らなかった。
私の答えを聞いて、鬼頭さんは納得したように笑う。
「確かにそうだよねー。普通の人だとプラモだなんてこれ、思わないよねぇ」
「はい、だから驚いちゃって」
「さっきのVチューバーのやつだし、余計にフィギュアにみえるかも」
言われて私はもう一度さっきのプラモのパッケージを見る。
いわれてみるとこの子、動画サイトで見たことあるような気がする。
「そうなんだ」
「あれ、Vチューバーは興味ない?」
「んー、推しとコラボしてない限りは知らないですねぇ」
「そっかー。俺もそこまで詳しくはないし、モデラーVチューバーくらいしか見ないけど」
モデラーVチューバー?
ふたたび出てきた知らない単語に、私は思わず眉間にしわをよせて鬼頭さんを見てしまう。
「Vチューバーにそんなジャンル、あるんですか?」
私の疑問に鬼頭さんは何度も頷いて言った。
「いろんなVチューバーがいるよ。歴史ジャンルは当たり前だし、法律系やショッピングモール系とか」
「そ、そんなのあるんだ……」
なに、ショッピングモール系って。何にも想像できないんですけど?
疑問符が頭の上にいっぱい浮かんでしまう。
疲れた顔をしている鬼頭さんは、ちょっと楽しそうに言った。
「うん、それでセナ=ジェイドっていうモデラーVチューバーがいて、その人の動画はよく見ているんだよね」
「へぇ……いろんなVチューバーがいるんですね」
なんか引っかかる名前だと思いながら、私は鬼頭さんの話を流した。
