二十五日木曜日。
クリスマス当日は平日だ。なのに混むなんて誰が想像するだろうか。
朝からすごく並ぶわけじゃないけれど、途切れないレジ。
常に三組程度のレジ待ちがいる状況が長く続いた。
十一時半近くになって一度レジが途切れた瞬間、私は呟く。
「クリスマス当日でもまだプレゼント買う人、いるんですね……」
そんな私の疲れた声に反応したのは、パートの雪村さんだった。
「いますよー。今日は小学校とか終業式のはず何で、午後からもっと混むと思いますよ」
と、あっけらかん、と言われる。
私は雪村さんの方をばっとみて、驚きの声を上げた。
「え、なんで終業式だと混むんですか?」
その言葉に雪村さんは肩をすくめる。
「え、なんでだろう。理由は分かんないですけど、終業式の日ってなぜか学校終わった後買い物に来るご家族、多いんですよね。もちろんプレゼント買いに来る人も多いし」
「クリスマスプレゼントって、そんなにぎりぎりに用意する人、多いんですか……?」
「あはは、ギリギリっていうか当日ですよね」
私はクリスマスを侮っていたかもしれない。
だって、そういうプレゼントは事前に用意するものだと思っていた。なのに二十四日でもなく、二十五日、クリスマス当日にこんなにラッピング希望のお客さんが来るなんて思ってもいなかった。
雪村さんは顎に手を当てて苦笑を浮かべる。
「まあ、クリスマスが終わったら年末商戦でしょ? で、年始があって。成人の日まではなんか混んでますよ」
「マジですか……」
てっきりクリスマスが終わったら少し落ち着くものかと思っていた。
なんていうかレベルが違う。
黒物のコーナーだって混まないわけじゃないけれど。単価がこんなに安いものにこんなに人が集まるのが驚きの連続だった。
中には十万近いフィギュアとかもあるし、しかもそれがバンバン売れるとか、すごい。
十万あったらテレビやエアコンも買えるのに。
「帰省客も多いですからねー。お年玉とか、お孫さんにおもちゃやゲーム買う人、多いですよ」
なるほど、と理解できたような、理解したくないような。
この期間だけでも給料上げてくれないだろうか。
初めてそう強く願った。
雪村さんが言う通り、クリスマスが終わった週末もお店の混みように大差はなかった。
続々とレジに並ぶお客さんたち。
パズルやボードゲームを買う人が多い気がする。トランプに人生ゲーム。人狼ゲームにカタンなど。年末年始だから、集まってやるのかな。
「すいません、麻雀牌っておいてありますか?」
「申し訳ございません、お取り扱いがないです」
という感じで、普段聞かれることのない商品の事を聞かれることも多かった。
ダーツも聞かれるけれど、ダーツってどこで売っているんだろうか。
プラモやニッパーを一緒に買う人も多いけど、初めて作ろうって人たちなんだろうな。
レジを抜け、バックヤードに行くと商品が入荷していて、アルバイトさんたちが仕分けをしていた。
「あれ、プラモだ」
「そうなんですよー。土曜日発売なんですけど、今日入ってきて。新作と発売済みの商品、まじっていてわけるのが大変で」
と言いながら、アルバイトさんは箱からプラモを取り出す。
その箱は普通のプラモの箱よりも小さくて、クマの絵が描かれている。
あれ、聖那君が言っていたプラモ、かな。
そう思って私は惹かれるようにアルバイトさんに近づく。
「それ、見せてもらってもいいですか?」
「あ、はいどうぞ。発売済みのやつですよ、それ」
そう言われて渡されたプラモは、パッケージに「クマッガイ」と書いてあって、白い可愛いクマの絵が描かれている。
そのクマは胸と背中に青いリボンがついている。
可愛い。
じっとパッケージを見つめていると、アルバイトさんが不思議そうな声で言った。
「気になりますか?」
「うん、ちょっと。友だちがこれたくさん集めていて」
「可愛いですよねーそれ」
そう告げて、バイトさんはプラモを仕分けていく。
可愛いな、これ。青いリボンが濃くて、私の推しカラーに近い。
どうしよう。これくらいなら簡単につくれるのかな。小さいし。
箱を見つめて悩んでいると、フロア長の声がした。
「ほしいの、それ?」
後ろから声がかかり、私はびくつきながらちょっとひきつつ後ろを振り返る。
すると、斜め後ろにフロア長が疲労の空気をまとって立っていた。
ちょっと大丈夫かな、と内心心配しつつ、私は答えた。
「あ、え? あ……えーと、いやあの、ちょっと可愛いなって思って」
「欲しいなら、一個買ってもいいけど」
そんな提案を受け、私はびくっとして目を大きく開いて、フロア長と手に持つプラモを交互に見てしまう。
欲しいだろうか……いや、心惹かれているのは確かだけれど。
私はフロア長の方を振り返り、遠慮がちに尋ねた。
「あの、本当にいいんですか、これ買って」
「アプリの会員、午前中三件とってるし」
と言い、フロア長は去ってしまう。
そういえば確かにアプリ会員、三人、入ってもらったけれども。
そのご褒美的な事かな。
「あ、よかったですねー。仙石さん」
なんだか買う雰囲気になり、私は迷いを抱えつつも頷いて、
「はい」
とだけ返事をして、パッケージを見つめた。
いや、プラモってニッパーが必要だよね? あと何が必要……?
私はそのプラモに名前を書いたメモを貼り付けて棚に置き、水分補給をしてから売り場へと戻った。
ガチャガチャがあるレジに向かうと、そちらもけっこうお客さんの数が普段よりも多い気がした。
ガチャガチャにどんどんお金を入れていくお客さん。
そのそばにあるプラモコーナーを見て周るお客さん。
大きなキャリーバッグを引きずるお客さんの姿も多い。
その途中で、私は思わず足を止める。
ニッパーがぶら下がる売り場。棚の一番上から下まで全部ニッパーだ。
これ、何が違うんだろう。
千円しないものから五千円を超えるものまである。
先端の形も違う様な……?
「ヒスイちゃん」
聞きなれた声に、私はばっと横を見る。
そこにいたのは、白いコートを着た聖那君だった。
彼は片手をあげ、
「こんにちは」
と爽やかに微笑む。
私は彼に笑いかけ、
「いらっしゃいませ」
と、声をかける。
彼は辺りをざっと見回して苦笑交じりに言った。
「今日も混んでるねぇ」
「うん」
私も苦笑して頷く。
「買い物?」
「うん」
「そうなんだ」
そう言いつつ、私は棚の方を見る。
たくさんあるしよくわからないから休憩時間にゆっくり見よう。
そんな私に疑問を抱いたのか、不思議そうな聖那君の声がした。
「ニッパー見つめてどうかしたの?」
どうかした。どうかしたら思わず足を止めて見つめている。
私は辺りを見回して声を潜めて答えた。
「えーと、ちょっと小さいプラモ作ってみようかなって思ってそれで……」
「あぁ、そうなんだ」
という、嬉しげな聖那君の声。
「でもよくわからないから、あとでゆっくり見ようと思って。あっちのレジに入らないとだし」
そう言いつつ私はレジの方を向く。
「ヒスイちゃん」
「何?」
聖那君は、棚にあるひとつの商品を指示しす。
「これ、セットのやつとかいいかも」
とだけ言い、彼はこちらを向く。
「俺、買い物して帰るね。またねヒスイちゃん」
人懐こい笑みを浮かべて聖那君は手を振り、私に背中を向ける。
その笑顔をみて、胸が高鳴るような気がして思わず胸に手を当てる。
これやっぱり恋、なんだろうな。
私、二十八歳だし。付き合うとなると結婚、の言葉がちらつく。
前に付き合った時は結婚を意識していたはずなのに、聖那君と結婚、とか考えるとどこか現実味を感じない。
聖那君は幼なじみだけど、Vチューバーでイベント企画の仕事していて、すごく眩しくて遠いところにある存在、だからかな。
私とは住む世界が違う。
そう感じるのに、彼はすごく私の手の届く場所にいる。
この間見た、聖那君の誕生日配信はすごかった。
平日なのに万単位の視聴者がいたし、新衣裳、かっこよかったなぁ。
黒に緑色で装飾された和モダンな衣装だった。
その衣装のアクスタとか缶バッチとか予約開始、とか言っていて、私、思わずアクスタ予約しちゃったもの。
幼なじみのアクスタ、私部屋に飾るのかと思うと変な気分だ。
そんな私とは生きる場所が違う相手なのにな。
「夢、抱いちゃうよね」
そう呟き、私は彼が示していた商品を見る。
それはニッパーやカッター、やすりなどがセットになっている。
あぁ、こういう商品あるんだ。
あとでよく見よう。
私はレジの方を向き、足早に売り場を通り抜けた。
クリスマス当日は平日だ。なのに混むなんて誰が想像するだろうか。
朝からすごく並ぶわけじゃないけれど、途切れないレジ。
常に三組程度のレジ待ちがいる状況が長く続いた。
十一時半近くになって一度レジが途切れた瞬間、私は呟く。
「クリスマス当日でもまだプレゼント買う人、いるんですね……」
そんな私の疲れた声に反応したのは、パートの雪村さんだった。
「いますよー。今日は小学校とか終業式のはず何で、午後からもっと混むと思いますよ」
と、あっけらかん、と言われる。
私は雪村さんの方をばっとみて、驚きの声を上げた。
「え、なんで終業式だと混むんですか?」
その言葉に雪村さんは肩をすくめる。
「え、なんでだろう。理由は分かんないですけど、終業式の日ってなぜか学校終わった後買い物に来るご家族、多いんですよね。もちろんプレゼント買いに来る人も多いし」
「クリスマスプレゼントって、そんなにぎりぎりに用意する人、多いんですか……?」
「あはは、ギリギリっていうか当日ですよね」
私はクリスマスを侮っていたかもしれない。
だって、そういうプレゼントは事前に用意するものだと思っていた。なのに二十四日でもなく、二十五日、クリスマス当日にこんなにラッピング希望のお客さんが来るなんて思ってもいなかった。
雪村さんは顎に手を当てて苦笑を浮かべる。
「まあ、クリスマスが終わったら年末商戦でしょ? で、年始があって。成人の日まではなんか混んでますよ」
「マジですか……」
てっきりクリスマスが終わったら少し落ち着くものかと思っていた。
なんていうかレベルが違う。
黒物のコーナーだって混まないわけじゃないけれど。単価がこんなに安いものにこんなに人が集まるのが驚きの連続だった。
中には十万近いフィギュアとかもあるし、しかもそれがバンバン売れるとか、すごい。
十万あったらテレビやエアコンも買えるのに。
「帰省客も多いですからねー。お年玉とか、お孫さんにおもちゃやゲーム買う人、多いですよ」
なるほど、と理解できたような、理解したくないような。
この期間だけでも給料上げてくれないだろうか。
初めてそう強く願った。
雪村さんが言う通り、クリスマスが終わった週末もお店の混みように大差はなかった。
続々とレジに並ぶお客さんたち。
パズルやボードゲームを買う人が多い気がする。トランプに人生ゲーム。人狼ゲームにカタンなど。年末年始だから、集まってやるのかな。
「すいません、麻雀牌っておいてありますか?」
「申し訳ございません、お取り扱いがないです」
という感じで、普段聞かれることのない商品の事を聞かれることも多かった。
ダーツも聞かれるけれど、ダーツってどこで売っているんだろうか。
プラモやニッパーを一緒に買う人も多いけど、初めて作ろうって人たちなんだろうな。
レジを抜け、バックヤードに行くと商品が入荷していて、アルバイトさんたちが仕分けをしていた。
「あれ、プラモだ」
「そうなんですよー。土曜日発売なんですけど、今日入ってきて。新作と発売済みの商品、まじっていてわけるのが大変で」
と言いながら、アルバイトさんは箱からプラモを取り出す。
その箱は普通のプラモの箱よりも小さくて、クマの絵が描かれている。
あれ、聖那君が言っていたプラモ、かな。
そう思って私は惹かれるようにアルバイトさんに近づく。
「それ、見せてもらってもいいですか?」
「あ、はいどうぞ。発売済みのやつですよ、それ」
そう言われて渡されたプラモは、パッケージに「クマッガイ」と書いてあって、白い可愛いクマの絵が描かれている。
そのクマは胸と背中に青いリボンがついている。
可愛い。
じっとパッケージを見つめていると、アルバイトさんが不思議そうな声で言った。
「気になりますか?」
「うん、ちょっと。友だちがこれたくさん集めていて」
「可愛いですよねーそれ」
そう告げて、バイトさんはプラモを仕分けていく。
可愛いな、これ。青いリボンが濃くて、私の推しカラーに近い。
どうしよう。これくらいなら簡単につくれるのかな。小さいし。
箱を見つめて悩んでいると、フロア長の声がした。
「ほしいの、それ?」
後ろから声がかかり、私はびくつきながらちょっとひきつつ後ろを振り返る。
すると、斜め後ろにフロア長が疲労の空気をまとって立っていた。
ちょっと大丈夫かな、と内心心配しつつ、私は答えた。
「あ、え? あ……えーと、いやあの、ちょっと可愛いなって思って」
「欲しいなら、一個買ってもいいけど」
そんな提案を受け、私はびくっとして目を大きく開いて、フロア長と手に持つプラモを交互に見てしまう。
欲しいだろうか……いや、心惹かれているのは確かだけれど。
私はフロア長の方を振り返り、遠慮がちに尋ねた。
「あの、本当にいいんですか、これ買って」
「アプリの会員、午前中三件とってるし」
と言い、フロア長は去ってしまう。
そういえば確かにアプリ会員、三人、入ってもらったけれども。
そのご褒美的な事かな。
「あ、よかったですねー。仙石さん」
なんだか買う雰囲気になり、私は迷いを抱えつつも頷いて、
「はい」
とだけ返事をして、パッケージを見つめた。
いや、プラモってニッパーが必要だよね? あと何が必要……?
私はそのプラモに名前を書いたメモを貼り付けて棚に置き、水分補給をしてから売り場へと戻った。
ガチャガチャがあるレジに向かうと、そちらもけっこうお客さんの数が普段よりも多い気がした。
ガチャガチャにどんどんお金を入れていくお客さん。
そのそばにあるプラモコーナーを見て周るお客さん。
大きなキャリーバッグを引きずるお客さんの姿も多い。
その途中で、私は思わず足を止める。
ニッパーがぶら下がる売り場。棚の一番上から下まで全部ニッパーだ。
これ、何が違うんだろう。
千円しないものから五千円を超えるものまである。
先端の形も違う様な……?
「ヒスイちゃん」
聞きなれた声に、私はばっと横を見る。
そこにいたのは、白いコートを着た聖那君だった。
彼は片手をあげ、
「こんにちは」
と爽やかに微笑む。
私は彼に笑いかけ、
「いらっしゃいませ」
と、声をかける。
彼は辺りをざっと見回して苦笑交じりに言った。
「今日も混んでるねぇ」
「うん」
私も苦笑して頷く。
「買い物?」
「うん」
「そうなんだ」
そう言いつつ、私は棚の方を見る。
たくさんあるしよくわからないから休憩時間にゆっくり見よう。
そんな私に疑問を抱いたのか、不思議そうな聖那君の声がした。
「ニッパー見つめてどうかしたの?」
どうかした。どうかしたら思わず足を止めて見つめている。
私は辺りを見回して声を潜めて答えた。
「えーと、ちょっと小さいプラモ作ってみようかなって思ってそれで……」
「あぁ、そうなんだ」
という、嬉しげな聖那君の声。
「でもよくわからないから、あとでゆっくり見ようと思って。あっちのレジに入らないとだし」
そう言いつつ私はレジの方を向く。
「ヒスイちゃん」
「何?」
聖那君は、棚にあるひとつの商品を指示しす。
「これ、セットのやつとかいいかも」
とだけ言い、彼はこちらを向く。
「俺、買い物して帰るね。またねヒスイちゃん」
人懐こい笑みを浮かべて聖那君は手を振り、私に背中を向ける。
その笑顔をみて、胸が高鳴るような気がして思わず胸に手を当てる。
これやっぱり恋、なんだろうな。
私、二十八歳だし。付き合うとなると結婚、の言葉がちらつく。
前に付き合った時は結婚を意識していたはずなのに、聖那君と結婚、とか考えるとどこか現実味を感じない。
聖那君は幼なじみだけど、Vチューバーでイベント企画の仕事していて、すごく眩しくて遠いところにある存在、だからかな。
私とは住む世界が違う。
そう感じるのに、彼はすごく私の手の届く場所にいる。
この間見た、聖那君の誕生日配信はすごかった。
平日なのに万単位の視聴者がいたし、新衣裳、かっこよかったなぁ。
黒に緑色で装飾された和モダンな衣装だった。
その衣装のアクスタとか缶バッチとか予約開始、とか言っていて、私、思わずアクスタ予約しちゃったもの。
幼なじみのアクスタ、私部屋に飾るのかと思うと変な気分だ。
そんな私とは生きる場所が違う相手なのにな。
「夢、抱いちゃうよね」
そう呟き、私は彼が示していた商品を見る。
それはニッパーやカッター、やすりなどがセットになっている。
あぁ、こういう商品あるんだ。
あとでよく見よう。
私はレジの方を向き、足早に売り場を通り抜けた。
