20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 十二月二十二日月曜日。
 疲れた私は、ゆっくりめの朝を迎えた。
 ベッドの上で私は呻る。

「疲れた」

 思えばたくさんレジを打った。腕がなんだか怠い。
 三日間、すごい回数、レジを打ったし当然だろう。
 朝の朝礼で、フロア長が売上金額を言うんだけど、この時期、平日が普段の土曜日並で、土日はその倍近かった。
 単価が安いのに倍近いってどういうこと。
 疲れるのは当然だった。
 昨日、生で推しを見て心は癒された。
 でも身体を癒すには寝るしかない。

「今日はだらだらするって決めているんだ」

 と呟き、私は大きな欠伸をした。
 時間は今、九時前。

「あ……聖那君の配信」

 そう思って私はよろよろと起き、リビングのテレビをつける。
 毎日動画を見ているわけじゃないのに。そもそも仕事があるから毎日見られるわけはないんだけど。
 私の休みの日のルーティーンの中に、セナ=ジェイドの生配信を見る、が加わりそうになっている。
 昨日、中の人に会っているというのに。
 私は欠伸をしながら、口をすすいで顔を洗い、だらだらと朝食を準備する。
 その間に配信が始まった。

『皆さんおはようございまーす』

 と、ふだんより抜けた声が聞こえる。

『え。眠そうだって? うん、昨日遅かったからねー』

 きっとコメントで突っ込まれたのだろう。
 間延びした声が聞こえてくる。
 確かに昨日、ご飯食べて聖那君の車に乗ったの、十時近かったもんね。
 お茶と惣菜パン、それにカップスープを用意して私は座椅子に座る。
 誕生日のプレゼントがけっこう届いているらしく、その話をしていた。

『皆プレゼントありがとう。夜の配信でまた話すけどすごく嬉しいよ』

 すごいな、Vチューバー。誕生日プレゼントとか届くんだ。
 流れるコメントの中に、

『セナ君大好き♡』

『セナ君プレゼント喜んでくれるといいな♡』

『♡♡♡♡♡♡♡』

 みたいなのが並ぶ。
 何だろう、それを見ていると胸の奥が締め付けられる。
 皆が知らない「セナ=ジェイド」の中の人を知っているのは私だけ、なんだよな。
 登録者が二十万人もいるのに。
 そのことに優越感を感じてしまう自分が何だか嫌だった。
 私は動画を見つめながら、呟く。

「私、聖那君に惹かれているのかな」

 そう思えば、このもやつく感情に全て説明がつく。
 好きだから、この見えない視聴者たちに嫉妬して、見えない視聴者に優越感を抱いているんだ。
 それがすごく醜く思えてしまう。

「幼なじみ、てだけなのにな」

 いや、だけじゃないな。
 あの変な客から助けてくれた事実は大きい。
 すごく冷たい感じだったけど、今思い返すとかっこよくも思える。
 私のために誕生日やってくれて。
 二十年前のわだかまりもなくなって。

「そもそも私が聖那君に『嫌いだ』て言われてショック受けたの、聖那君のこと、好きだったから、だよね」

 その事を自覚して、私の胸の奥のもやが少し晴れた気がした。
 だから、「嫌い」て言葉を言われてすごくショック受けて距離置いたんだ。
 あの頃はそこまでわからなかった。
 ただ「嫌い」て言われてショックで。でもそれは自分が悪いんだから嫌われるのは当たり前だと思っていた。
 この感情は、子供の頃のものと陸続きなのか。
 そこは自分でもよくわからない。
 私の前で見せるコロコロとした人懐こい顔や、あの変な客に見せた冷徹な顔。
 やだ、思い出したら顔中の体温上がりそう。
 子供の頃、プラモを見せてもらった日のことは今でもよく覚えている。

『ヒスイちゃん! 見てみて、これ初めてひとりで作ったんだ!』

『聖那君すごーい!』

 私の言葉に得意げになる聖那君。
 最近知ったけど、あのプラモ、対象年齢八歳かららしい。
 がんばって作ったんだろうな、て思うとやっぱり心が痛い。
 腕や足、何かのパーツが折れてしまった白いプラモ。

「あの時のプラモ、どうしたのかな」

 動画を見ながら首をかしげる。
 きっと捨てたよね。何か折れてしまっていたし。
 私はスマホを開いて、メッセージアプリを開く。
 聖那君のアイコンは、あの私が壊した白いプラモにそっくりだ。
 きっと、買い替えたんだろうな。
 同じものが再販されるらしいし。
 そして、昨日、聖那君が撮った写真を見る。
 成人式のとき、ぎこちなく笑っていたけど、昨日の私は自然に笑っていた。
 それに思った以上に聖那君との距離が近い。

「聖那君……」

 二十八歳だっていうのに私、何してるんだ。
 向こうは恋人いないし、結婚してもいないんたから何も問題はないじゃない。
 でも、

『幼なじみとして付き合って』

 と言われたあとだから躊躇してしまう。
 だって恋人になったら幼なじみ、ではなくなるし。
 私はカップスープのカップを持ってテレビを見つめ、呟く。

「私、どうしたいだろう」

 今の心地良い関係を壊す勇気は、持ち合わせていないんだ。