20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 十メートル以上はあるだろう、大きなクリスマスツリー。
 足を止めた人たちは、スマホを向けて写真を撮っている。
 記念撮影してる人も多くて、皆楽しげに笑っていた。
 中にはプレゼントを渡しあっている若い子たちもいる。
 その様子を思わず見ていると、なんだか微笑ましい。
 中には抱き合ったり、キスする子たちもいて私は思わず顔を伏せた。
 人目、気にならないんだろうか。あれが若さなのかな。

「青春だねー」

 と、隣で聖那君が笑う。
 私は聖那君の方を見て、

「そ、そうね」

 と、苦笑する。
 私は提げているショルダーバッグに目を落とす。
 聖那君へのプレゼント、いつ渡そう。
 イルミネーションは市役所の方にもあるからきっとそっちに行くだろう。
 その時かな。
 私は聖那君に向かって言った。

「ねえ、聖那君、市役所の方にも行くよね」

「うん、そっちまで行って、そのあと夕飯かな。でも時間的にお店あんまりやってないけどどうしようか」
 
 と、聖那君は腕時計を見る。
 そうか。市役所まで行って戻ってきたら何時だろう。たぶん九時近くになるだろう。
 確かにあいている飲食店は限られてしまう。居酒屋とかになっちゃうよね。
 ぎりぎりファミレスがやっているかな。

「聖那君、交通手段何?」

「車だよ」

「じゃあ、ファミレスならぎりぎりあいてるからそこ寄って行こうよ。たしか、駅から市役所行く途中にあったでしょ」

 そう私が提案すると、聖那君は微笑み頷いた。
 駅前から歩いて十五分ほど。市役所の前の広場には駅前とは違った大きなイルミネーションのツリーがあったり、トナカイの形をした飾り、サンタクロースに雪だるまもいる。
 その飾りの前も人が多くて、皆スマホを向けて撮影をしていた。
 駅前よりもずっと人が多いし子供の姿も目立つ。
 大きなツリーの中は入れるようになっていて、人がどんどん吸い込まれて、同じ数だけの人が出てくる。

「あ、ツリーの中入れるんだ」

 そう呟く私に、聖那君はツリーを示して言った。

「中入ろうよ」

「うん」

 私は頷き、バッグへと目を向ける。
 ここでプレゼント、渡そうかな。
 タイミングがよくわからないし、帰りぎわもなんか味気ない気もするから。
 私たちもツリーの中に入り、上を見上げる。
 白に青の光の雨をみているとなんだかくらくらしてきてしまう。
 すぐに視線を落とすと、足元にも小さなイルミネーションの飾りがあって、人々がスマホを向けていた。
 小さな雪だるまに、小さなツリーがあってクリスマスソングが流れていることの気が付く。
 私もイルミネーションの写真を撮っていると、聖那君が遠慮がちに言った。
 
「あの、ヒスイちゃん、写真撮らない?」

「え? それってふたりでってこと?」

 ちょっと驚いて私は聖那君の顔を見る。
 彼は自信なさげな顔で答えた。

「うん。えーと、嫌じゃなければ、だけど」

 私の様子を伺う様な、揺れる瞳。
 その後ろで、家族やカップルたちが記念撮影をしているのが見える。
 嫌じゃない。それはそうだ。そもそも幼なじみなんだから。
 でも一緒に写真を撮るってことは、それだけ身体を寄せるってことだよね?
 子供の頃ならそんな距離感なんて気にしなかっただろう。
 でも今は大人だし、さすがにその距離感は気にしてしまう。
 ――恋人じゃないんだよね、私たち。
 聖那君に、幼なじみとして付き合ってほしいと言われて、それを受け入れて今がある。
 改めて私は聖那君の顔を見る。
 二十歳のころに顔を合わせてそれっきりだった幼なじみ。
 そんな構ってほしそうな犬のような目で見つめられると、心が揺らぐ。
 そんな目で見つめられると弱い。
 明日で二十八歳になるというのにその目はちょっとって感じるけれど、情の方が勝ってしまう。
 迷った挙句、私は頷き、

「いいよ」

 と、短く答えた。
 するとぱぁっと嬉しげな顔になり、聖那君は辺りを見回す。
 ちょっと向きを変え、人の通行の邪魔にならない場所に立ち、聖那君は私に身体を寄せる。

「ちょっとごめんね」

 聖那君から漂う、香水の匂いがはっきりとわかるほど、近い距離。
 ちょっと恥ずかしさを感じながら私はスマホのカメラを見た。
 でもどうしても画面に映る自分の顔に目がいってしまう。
 自撮りって苦手なんだよね。
 なんとか笑顔を作った時、

「撮るよ」

 と、聖那君が短く言って、
 
 カシャリ

 という音が続く。
 二枚、シャッター音が続いた後、聖那君はすっと離れていった。

「ありがとう、ヒスイちゃん。あとで写真、送るね」

「あ、うん」

 聖那君がスマホをしまい、私たちはツリーの中から出た。
 すると聖那君は幸せそうな顔でこちらを見て言った。

「そろそろご飯食べにいこうか。お腹すいたし」

「あ、うん、そうだね」

 そう答えつつ、私はがさごそとバッグから袋を取り出す。
 それは聖那君へのプレゼントが入った袋だ。

「ねえ聖那君。これ」

 と言いながら私は聖那君に緑色のラッピング袋を押し付けた。
 すると一瞬驚いた顔をして、袋と私の顔を交互に見る。

「え、あ……え?」

「一日早いけど、誕生日のプレゼント」

 そう笑いかけると、聖那君は心底嬉しそうな顔になった。

「ほんとうに? ありがとう」

 そう言いながら彼はその袋を受け取る。

「うん。何かあげないと私の気が済まないから」

「ありがとう、すっごくうれしいよ。あけていい?」

 その問いに私は頷く。
 聖那君は白いリボンをほどいて、中を開ける。
 出てきたのは緑色のステンレスタンブラーだ。ふたつきの物で中にドリンクチケットも入っている。
 それをッテに持った聖那君は目を輝かせて言った。

「綺麗な色だね、これ」

「うん、なんか聖那君のアバターっぽい色だなって思って」

 それよりも濃い緑色だけれど、これしかないかな、と思って緑色のタンブラーを選んだ。
 聖那君はタンブラーを片手に幸せそうな顔で私の方を見る。

「ありがとう、ヒスイちゃん」

「こちらこそ、いろいろお世話になってるし。ありがとう」

 そう言って笑いかけると、彼は照れたように笑みを浮かべた。