20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 なんでこんなところに聖那君が?
 私はステージと、聖那君を交互に見てしまう。
 だって、ステージの方が気になるからだ。
 ちょうど一曲目が終わり、私は聖那君に尋ねた。

「何でここに……」

 と言ってから私は聖那君が首から下げているものに気が付く。
 それは、このお店の入店証で、「イベント」という文字が見える。
 ということは……
 私が言う前に、聖那君はにやっと笑って言った。

「うん、今日のイベント、ちょっとお手伝いしているから。キャスティングとか」

「え、そうだったの? てっきりうちのイベント課だけでやってるのかと思ってた」

「イベントの規模にもよるけど、今日みたいにいろんな人が出演するイベントは外部委託、けっこうあるよ。だから俺、今日は関係者で朝から来てるし」

 知らなかった。
 聖那君は全然仕事の話、しないから。
 あれ待てよ?
 キャスティング、と聖那君は言った。
 それってつまり、出演者の交渉をしたりするって事よね。
 そんな話をしている間に、トークが終わって曲が始まる。
 もしかして、つばき坂が今日出演しているのも聖那君のおかげ……?
 いやでも去年もこのイベントに出演しているって聞いたしな。
 偶然? それとも……
 曲を聞きつつ、私はちらっと聖那君を見る。
 彼は楽しそうな顔で、コートのポケットに手を突っ込んでステージを見ていた。
 いま、つばき坂は三十人くらいいるはずだ。その中で十人前後がローテーションでイベントに出演する。
 私の推しであるみつきちゃんがきてるのは、たまたま、だよね?
 みつきちゃんは可愛いけど、それ以上に聖那君がなにやったのか、気になってしまう。
 二曲目が終わってトークになったとき、私は聖那君に早口で尋ねた。

「じゃあつばき坂のキャスティングも?」

「うん。去年でてくれているしね。ヒスイちゃんの推しって知ったのは交渉してるときだったから驚いたよ」

 と、照れたように笑う。
 そうだよね、たまたまだよね。
 まさか私のために手を回すとか考え過ぎだろう。
 そんなことあるわけないのだから。
 三十分弱のステージはあっという間だった。
 久しぶりに生で見た推しは、すっごく素敵ですっごくよかった。生歌聞けて良かったぁ。
 午後の仕事も頑張ろう。
 私はとなりに顔を向けて言った。

「聖那君、じゃあ私戻るからまたあとでね! たぶん待たせちゃうと思うけど、先に謝っとく、ごめん!」

 そして私は手を合わせる。
 風が吹いて、思わずぶるり、と震えてしまう。

「あぁ、大丈夫だよ。それより寒いし早く戻った方がいいよ」

「うん、またあとでね!」

 私は聖那君に手を振り、慌ただしくお店の中に戻る。
 そして買っておいたおにぎりを勢いよく食べて、着替えて売り場へと戻った。


 午後もレジに入っているときはずっとお客さんが途切れなかった。
 結局帰れたのは七時半すぎで、その時間になってもお客さんは途切れていなかった。
 ロッカーで着替えて従業員出入り口に向かいながら、私は聖那君にメッセージを送る。

『ごめんね! 今終わった』

『わかった、じゃあいつものところで待ってるね』

 という返事が来る。
 私はスマホをコートのポケットにしまい、警備の所で手荷物検査を受けた。

「おつかれさまでーす」

「お疲れ様、はい、オッケーです」

 と、軽い手荷物検査を受けて、外に出る。
 外に出ると、凍てつく風が吹いて、私はマフラーに顔を埋めた。
 今日も寒い。
 聖那君がマフラーくれて本当に助かってる。

「ヒスイちゃん」

 出入り口の横、スーツ姿の聖那君がいて私に小さく手を振る。

「おまたせ、聖那君。寒かったでしょ」

「大丈夫だよ、ぎりぎりまでお店の中にいたし」

 そう答えて聖那君は肩をすくめる。
 あぁ、そうか。従業員出入り口とお店の出入り口はそんなに離れていないしね。
 
「じゃあ行こうか。お腹もすいたし」

「うん、そうだね」

 私たちは並んで、駅へと向かって歩き出した。

「今日もやっぱり遅くなっちゃった」

「お疲れ様。クリスマス直前に買いに来る人、けっこういるんだね」

 その言葉に私は何度も頷く。

「そうそう。けっこう子供さん連れて買いに来る人も多いんだよね」

「そうなんだ。てっきり子供に隠れてクリスマスのプレゼントって買うものかと思っていたけど」

 それは私も意外だった。
 別でサンタがいるのか、そもそもサンタがいないご家庭なのかはわからなかったけど。
 子供本人に、ラッピングするか聞いている人もちらほらいた。
 西口に向かっていると、日曜日の夜のわりに普段より人通りが多いような気がした。
 特に学生くらいの年代が多いような?

「この時間なのにけっこう人、いるんだね」

 言いながら私は辺りを見回す。

「そりゃあ、大学生はもう休みなんじゃないかな」

「あ……」

 そうか、だからやたら周りに二十歳前後っぽい人が多かったのか。
 社会人は明日も仕事だから早めに帰るし。
 でもお子さん連れの人も目立つんだよね。
 西口に出ると、すぐに通路の壁を彩るイルミネーションの飾りが目に入った。
 視線を巡らせると、駅前の渡り通路からショッピングモールの手前に広場みたいな場所があるんだけど、大きなツリーがあって、淡い光を纏っていた。