怒涛の午前中が終わって、十二時半近くになり私はお昼休憩に入る。
地下にある社員食堂はそれなりに混んでいて皆ご飯を食べながら、スマホをみたりおしゃべりをしていた。
入社して二年目まで本社で働いていたから本社には何人か知ってる人いるけど、店舗にはいないのよね。
なんとなく寂しさを感じながら、私は社員食堂の親子丼を食べたあと、スマホと赤月君から渡されたメモを見つめていた。
連絡先の登録は簡単だ。
アプリを開いて検索画面をだして、このIDを入力したらいいだけだもの。
その、「だけ」に私は着手できていない。
赤月君とは五歳からの付き合いだ。よく知っている相手なのに。
どうして私、こんなに緊張しているんだろう。
私はカフェオレの缶を手に取って、それを口にする。
甘くて疲れた体に沁み渡る感じがする。
そしてまた、メモへと目を落とした。
赤月君の、手書きの文字。何度も目にしているはずだけど、なんだか知らない文字に見えた。
それだけ時間が経っているって事だ。
それはそうだ。八年ぶりだから。
「せっかく会えたし……っていうかけっこうポイント貯まっていたからきっとまた来るだろうしな……」
そう思うと、連絡しないままでいるのは正直気まずい。お店で顔を合わせることがこの先ある、ということだから。
私はメモを置き、スマホのロックを解除する。
そしてわずかに震える指先でメッセージアプリをタップして、友だち登録の画面を開いた。
IDを入力すると、すぐに赤月君のアカウントが出てくる。
アイコンがプラモの画像だ。このプラモだけはよく知っている。白くって細いフォルムのそのプラモは「白騎士ユーリア」で、赤月君が大好きなロボットだ。
相変わらず好きなんだな、このロボット。
そのアイコンを見ただけで、心がわずかに痛くなる。
だって私が壊しちゃったプラモ、これなんだもの。
きっと新しく買ったやつだろうな。当たり前だ。だって二十年も前なんだから。
懐かしいけど、あの頃と赤月君が変わらない趣味を持ち続けている事がちょっと驚きだった。
だから今日、再会できたんだろうけど。
私はゆっくりと登録ボタンをタップする。
するとすぐに、スタンプが送られてきた。
『こんにちは!』
って、猫のキャラクターが挨拶しているスタンプだ。
ちょっと早くない?
やだ、心臓、バクバク言い出している。
なにか送らなきゃ、と思って私は両手でスマホを持ってメッセージを入力した。
でもその前に、向こうからメッセージが届いてしまう。
『ヒスイちゃん、ありがとう! 今日会えてびっくりしたよ。すごくうれしい』
なんて書いてある。
私がプラモを壊して以来、ずっとぎくしゃくして、個人的なやりとりは全然なかったんだけど、赤月君、あの時の事、もう気にしていないのかな。
私はずっと、覚えているけれど。
私はメッセージを入力し直して、それを送信した。
『久しぶりだね。成人式以来だっけ。入社して二年は本社にいたんだけどそのあと人手が足りないって言われて都内のお店で働いていたんだ。で、今日からこっちで働くことになったの』
そんな事実を送るだけなのに、すごく私、緊張している。
両手でスマホをもって画面を見つめていると、またすぐにメッセージがくる。
『そうなんだ。俺も就職して前は都内に住んでいたけど、一年くらい前からこっちに住んでいるんだ。だからけっこうそこのお店、買い物いくよ』
やっぱり常連さん、なんだ。
『そっかー。じゃあこの先顔、合わせることあるよね』
そう思うとなんだか妙な気分だった。
私たちの出身地はここの隣の市だ。
だからこっちに残っている同期生とかはそれなりにいるはずだけど、まさか赤月君とピンポイントで会うなんて想像していなかった。
だってもう、会う事ないだろうなって心のどこかで思っていたから。
スマホを見つめていると、またメッセージが来た。
『ねえヒスイちゃん、よかったら一緒にランチ、行かない?』
その言葉に、心臓が大きく跳ね上がる。
ランチ? え、ど、どうしよう。
赤月君、知っている仲だし、でもふたりきりで会うのはあの、小学二年生以来だよ?
どうしよう、緊張が止まらない。心臓の音が大きすぎて、食堂中に響いているんじゃないだろうか。
ちょっと考えて、けれど断る理由は何にもないから、私はメッセージを返す。
『いいけど、私休み、平日だよ、大丈夫?』
接客業の欠点。それは休みがどうしても平日ばかりになってしまうこと。
だから友だちに会う機会、めっきり減った。
すると赤月君はすぐに、大丈夫、って返してくる。
『在宅仕事だからね、大丈夫だよ。だから休みわかったら連絡ちょうだい? 色々と話したいから』
色々と話したい、か。
思えば共有している想い出はたくさんある。だから話せることはそれなりにあると思うけれど、大丈夫かな。
何せ八年ぶりで、私にとって赤月君は子供の頃、色々あった相手だから。
――だからこそ、あの時の事を精算するいい機会なのかもしれない。
『わかった。シフト確認したらメッセージ送るね』
『うん、じゃあお店調べておくよ!』
そこでメッセージのやり取りは終わる。
ランチかぁ。
赤月君、結婚はしていないのかな。今年で二十八歳って微妙な年齢よね。
でもランチに行くだけだし……大丈夫って思いたい。
指輪してるかしてないかまでは見なかったけど、鏑木さんみたいにしてない人もいるからわかんないしな……
赤月君がまともな人であることを祈りつつ、私はスマホを置いて缶コーヒーを口にした。
地下にある社員食堂はそれなりに混んでいて皆ご飯を食べながら、スマホをみたりおしゃべりをしていた。
入社して二年目まで本社で働いていたから本社には何人か知ってる人いるけど、店舗にはいないのよね。
なんとなく寂しさを感じながら、私は社員食堂の親子丼を食べたあと、スマホと赤月君から渡されたメモを見つめていた。
連絡先の登録は簡単だ。
アプリを開いて検索画面をだして、このIDを入力したらいいだけだもの。
その、「だけ」に私は着手できていない。
赤月君とは五歳からの付き合いだ。よく知っている相手なのに。
どうして私、こんなに緊張しているんだろう。
私はカフェオレの缶を手に取って、それを口にする。
甘くて疲れた体に沁み渡る感じがする。
そしてまた、メモへと目を落とした。
赤月君の、手書きの文字。何度も目にしているはずだけど、なんだか知らない文字に見えた。
それだけ時間が経っているって事だ。
それはそうだ。八年ぶりだから。
「せっかく会えたし……っていうかけっこうポイント貯まっていたからきっとまた来るだろうしな……」
そう思うと、連絡しないままでいるのは正直気まずい。お店で顔を合わせることがこの先ある、ということだから。
私はメモを置き、スマホのロックを解除する。
そしてわずかに震える指先でメッセージアプリをタップして、友だち登録の画面を開いた。
IDを入力すると、すぐに赤月君のアカウントが出てくる。
アイコンがプラモの画像だ。このプラモだけはよく知っている。白くって細いフォルムのそのプラモは「白騎士ユーリア」で、赤月君が大好きなロボットだ。
相変わらず好きなんだな、このロボット。
そのアイコンを見ただけで、心がわずかに痛くなる。
だって私が壊しちゃったプラモ、これなんだもの。
きっと新しく買ったやつだろうな。当たり前だ。だって二十年も前なんだから。
懐かしいけど、あの頃と赤月君が変わらない趣味を持ち続けている事がちょっと驚きだった。
だから今日、再会できたんだろうけど。
私はゆっくりと登録ボタンをタップする。
するとすぐに、スタンプが送られてきた。
『こんにちは!』
って、猫のキャラクターが挨拶しているスタンプだ。
ちょっと早くない?
やだ、心臓、バクバク言い出している。
なにか送らなきゃ、と思って私は両手でスマホを持ってメッセージを入力した。
でもその前に、向こうからメッセージが届いてしまう。
『ヒスイちゃん、ありがとう! 今日会えてびっくりしたよ。すごくうれしい』
なんて書いてある。
私がプラモを壊して以来、ずっとぎくしゃくして、個人的なやりとりは全然なかったんだけど、赤月君、あの時の事、もう気にしていないのかな。
私はずっと、覚えているけれど。
私はメッセージを入力し直して、それを送信した。
『久しぶりだね。成人式以来だっけ。入社して二年は本社にいたんだけどそのあと人手が足りないって言われて都内のお店で働いていたんだ。で、今日からこっちで働くことになったの』
そんな事実を送るだけなのに、すごく私、緊張している。
両手でスマホをもって画面を見つめていると、またすぐにメッセージがくる。
『そうなんだ。俺も就職して前は都内に住んでいたけど、一年くらい前からこっちに住んでいるんだ。だからけっこうそこのお店、買い物いくよ』
やっぱり常連さん、なんだ。
『そっかー。じゃあこの先顔、合わせることあるよね』
そう思うとなんだか妙な気分だった。
私たちの出身地はここの隣の市だ。
だからこっちに残っている同期生とかはそれなりにいるはずだけど、まさか赤月君とピンポイントで会うなんて想像していなかった。
だってもう、会う事ないだろうなって心のどこかで思っていたから。
スマホを見つめていると、またメッセージが来た。
『ねえヒスイちゃん、よかったら一緒にランチ、行かない?』
その言葉に、心臓が大きく跳ね上がる。
ランチ? え、ど、どうしよう。
赤月君、知っている仲だし、でもふたりきりで会うのはあの、小学二年生以来だよ?
どうしよう、緊張が止まらない。心臓の音が大きすぎて、食堂中に響いているんじゃないだろうか。
ちょっと考えて、けれど断る理由は何にもないから、私はメッセージを返す。
『いいけど、私休み、平日だよ、大丈夫?』
接客業の欠点。それは休みがどうしても平日ばかりになってしまうこと。
だから友だちに会う機会、めっきり減った。
すると赤月君はすぐに、大丈夫、って返してくる。
『在宅仕事だからね、大丈夫だよ。だから休みわかったら連絡ちょうだい? 色々と話したいから』
色々と話したい、か。
思えば共有している想い出はたくさんある。だから話せることはそれなりにあると思うけれど、大丈夫かな。
何せ八年ぶりで、私にとって赤月君は子供の頃、色々あった相手だから。
――だからこそ、あの時の事を精算するいい機会なのかもしれない。
『わかった。シフト確認したらメッセージ送るね』
『うん、じゃあお店調べておくよ!』
そこでメッセージのやり取りは終わる。
ランチかぁ。
赤月君、結婚はしていないのかな。今年で二十八歳って微妙な年齢よね。
でもランチに行くだけだし……大丈夫って思いたい。
指輪してるかしてないかまでは見なかったけど、鏑木さんみたいにしてない人もいるからわかんないしな……
赤月君がまともな人であることを祈りつつ、私はスマホを置いて缶コーヒーを口にした。
