20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 十一月十九日水曜日。
 私がこのお店に来て一カ月が経過した。
 慣れたかといわれると怪しいけれど、なんとかやっている。
 土日が忙しいのは当たり前だけれど、月末が近づくにつれて平日もお客さんが増えてきた。
 なんとなくレジが途切れない。
 ひと会計に並び、会計している間にまたひとり並び、絶え間なく並んで途切れない、という感じだ。
 先週の平日はまだ暇だったのに、一週間でこんなにかわるなんて。
 そんな私の疑問に答えてくれたのは、鬼頭さんだった。
 レジの中、お客さんが途切れた一瞬。相変わらず疲れた顔をしている鬼頭さんは、明日発売のゲームソフトの用意をしながら言った。

「サンタさん、お子さんが学校とかに行っている間に買い物するしかないからねえ」

「あぁ、言われてみればそうですね」

 そんなの考えもしなかった。
 でもこんなに早く買ってどうするんだろう。

「プレゼント、どこに隠すんですかね?」

「うーん……車の中とか。親の寝室の押入れとか?」

 と、鬼頭さんは首を傾げる。
 うちの親はクリスマス、サンタがいるシステムじゃなかったからな。
 一緒に買い物に行ったっけ、と思い出す。
 同級生の中にはプレゼントを見つけちゃったとか、そういう話をしていた子もいたような。
 下手すると見つかるよね。
 そう思って私は鬼頭さんの顔をじっと見る。
 鬼頭さん、結婚しているんだろうか。そういう話は私邸内。
 彼は指輪をしていない。年齢は確か三十歳くらいだったと思う。
 私は彼の様子を伺いつつ、声を潜めて尋ねた。

「あの、鬼頭さん、結婚は……」

「してないよ……」

 ため息交じりに言われてしまい、なんだか気まずい気持ちになってしまう。
 だから結婚についてなんて話題にしないんだよね。
 子供の話も鬼門だったりするし。
 何だかいたたまれない気持ちになったとき、会計にお客さんがやってくる。
 会社帰りの六時を過ぎるとお客さんがまた増えて、なかなかレジを抜けられず帰れたのは七時半過ぎだった。
 レジから聖那君が通り掛かる姿を一度見たけど、申し訳なさすぎる。
 私は早足でバックヤードの廊下を歩き、スマホをとりだして聖那君にメッセージを送る。

『ごめんね! 全然レジ抜けられなくって』

 すぐに既読がつき、聖那君から「大丈夫!」っていうスタンプが返ってくる。

『レジ前通りがかったけど、お客さんすごかったね。クリスマス近いから仕方ないよ」

『本当にごめんね! 今日、夕飯奢るから!』

 その言葉に聖那君は喜びを表すスタンプを返してくる。
 私はスマホをしまい、急いでロッカーに向かう。急いでベストを脱いでコートをだし、それを羽織ってバッグの紐を掴む。
 急いでいかないと。
 早足で歩いて地下のロッカールームから一階の従業員出入り口に向かう。
 荷物の検査を受けて外に出ると、扉のそばで待っていた聖那君と顔を合わせた。

「お疲れ様」

 と、優しく笑う聖那君。
 そんな彼に私は手を合わせて頭を下げた。

「ほんとごめん! 平日でもあんなに混むなんて思わなかった」

「あぁ、来月クリスマスあるもんね」

「そうそう。ラッピングって言う人、すごい多いんだよね」

 話しながら私たちは歩き始める。
 お店の裏を通って店の中に入ろう、としたときだった。

「センゴクさん!」

 そんな男の声が背後からかかって私は大きく震えた。
 振り返りたくない。
 だってその声はあのしつこい客の声だからだ。
 でも私よりも早く振り返った聖那君の不審そうな声が聞こえた。

「……あれ……? 」

「……え、あ……赤月、さん……?」

 という、男の怯えた声が響く。
 振り返ると、あの男が驚いた顔をして聖那君を指さしている。
 私はカバンの紐を握りしめて男性客と聖那君を交互に見る。
 聖那君、張り付けたような笑顔でちょっと怖い。
 聖那君はコートのポケットに手を突っ込んで、とても冷たい声で言った。

「えーと、近衛さん、でしたっけ。ホビーショーでお会いしましたよね」

 その声にゾクッとしてしまう。
 私は聖那君の顔を見る。
 ものすごい笑顔だけど、まとっている空気がすごく冷たい。
 これは冬だから、ていう理由じゃないよね。

「何かご用ですか」

 聖那君はじっと男を見つめて言うと、怯えたような声が聞こえてくる。

「い、い、いやぁ……えーと、な、な、何でもないです」

 男をみると、彼は焦ったように首を横に振る。

「まさか、彼女を待ち伏せしていた、ってわけじゃないですよね」

「ち、ち、ち違いますよお! ほらその、店員さん見かけたから声かけただけでその……赤月さんの知り合いとか知らなくて」

「業務外の店員に話しかけてどうするんですか?」

 心底不思議そうに言う聖那君。
 確かにそうだ。仕事中ならわかるけど、プライベートの時間に声をかけるのは何かしらの意図があると思ってしまう。
 実際あるんだろうけれど。
 男はぶんぶんと首を振り続け、そんなんじゃない、と繰り返す。

「確か、名刺、いただいていましたよね。会社の方にご連絡さしあげましょうか?」

 そんな聖那君の言葉に、男は大きく目を見開いてブルブルと震えだす。

「い、いや、そ、それだけは……その……」

「彼女に、用、ないですよね」

「は、はい、あの、失礼します!」

 完全に裏返った声で言って、男は私たちに背を向ける。
 正直、私から見ても聖那君、ちょっと怖かった。
 今はそれが頼もしくは見えるけれど。
 男を見送り、打って変わって優しい顔の聖那君がこちらを向いた。

「あれが変な客?」

「あ……うん。ありがとう、聖那君。知り合いなの?」

 その問いかけに、彼は苦笑して肩をすくめる。

「うん、まあ。ホビーショーで会って話したことがあるだけだけど」

「そーなんだ。よく覚えてるね」

「とりあえず俺、そっちじゃそこそこ名前知られてるし、見た目が目立つからね」

 そう恥ずかしげに答える。
 まあ、白のメッシュなんて入れてる人、あんまり見ないもんね。たしかに目立つ容貌だ。

「でも、そのおかげて助かったかも。ありがとう、聖那君」
 
 これで声、かけてこなくなるといいけど。

「そうだね。俺も注意喚起しとこうかな。『女性店員につきまとってる奴がいる』って。狭い世界だから、それだけでもきくんじゃないかなぁ」

 と、ちょっと悪そうな顔になる。

「そうなんだ。それでつきまといが止まるならお願いしたい……かな。すごく迷惑してるし、家までついてこられたら嫌だもの」

「だよね。やれることやっておこうかな」

 そんな聖那君が頼もしいような、少し怖いような。
 そうか。
 あの男性客、モデラーだもんね。聖那君と顔見知りとか思いもよらなかったけど、それだけ狭い界隈なんだろうな。
 私が好きなアイドルの追っかけでも有名な人いるし。
 私たちは店の中に入り、駐車場へと向かう。
 安心したらお腹がすごく空いていることに気がつく。
 おごる、て言ったけど夕飯どうしよう。

「聖那君、何食べたい?」

「えー? そうだな……時間も遅いしファミレスとか牛丼とかかな」

「あ、牛丼いいな。ひとりじゃなかなか食べに行けないし」

 想像したら余計にお腹すいてきた。
 私たちは車に乗って、夕食を食べに郊外にある牛丼屋さんに立ち寄った。