20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 お客さん……じゃなくって赤月君は帽子をとると、懐かしそうに目を細めて言った。

「やっぱりヒスイちゃん、だよね。遠目に見たとき似てるなって思ったんだ」

 その言葉を聞きながら、私は完全に固まって赤月君を見つめた。
 だって、彼の黒かった髪が明るい茶色に変わっていて、しかも前髪に白いメッシュなんか入ってるんだもの。
 誰? ってくらい、見た目が変わっている。
 それに赤月君、こんなにかっこよかったっけ?
 私の中では元気な男の子、っていう印象ではあるけど。
 赤月君は嬉しそうな声音で言った。

「今までここで会った事なかったけど、応援? 異動?」

「え……あ、と、とりあえずまだお客様がな、並んでるからあとで」

 私は慌てて言って、レジをすすめる。

「えーと……レ、レジ袋、有料ですが」

「あ、いらないです」

「はい。お会計が、二七五〇円になります。ポイントのご利用はございますか?」

「そのままでお願いします」

 と、レジをすすめていくと、最後、赤月君は商品をエコバッグに入れながら言った。

「また後で」

 と。
 後でってどういうこと?
 そう思ったけれど、レジ待ちのお客さんはまだ数名いるからそんなの聞けるはずがない。私はつられるように手を振って、彼を見送った。
 結局オープンから二時間近くレジ打ちっぱなしで、やっと途切れた頃、私は大きく息を吐いた。

「こんなに混むんだ……」

「そうですねぇ、今日はプラモとミニカーの発売日でしたからね。月の後半の土曜日って、玩具の発売日が被るから混むんですよ」

 そう教えてくれたのは、パート従業員の女性、雪村さんだ。

「こんなに長い時間、レジ打つこと、年末年始とかくらいしかないですよ……?」

 そう私が言うと、雪村さんは、あはは、と笑って言った。

「そうなんだー。土曜日の朝はこんな感じの事多いですよー。トレーディングカードゲームの発売日もすごいし」

 トレーディングカードゲーム……?
 レジの時もそうだけど、知らない単語が飛び交う飛び交う。
 戦隊とかプリンセスシリーズとか、ふわっとしか知らないし。
 たくさん会計に来たプラモシリーズのこともよく知らないし。
 再販っていう言葉もいっぱい聞いたっけ。
 私はレジの中に置かれているたくさんの商品在庫を見つめる。
 カードゲームのパックにゲームソフトやゲーム機。コントローラー、それに玩具の特典物たち。
 黒物のコーナーはここまで商品在庫、置いてない。
 高いイヤホンとか、ハードディスクくらいかな。大きい商品は倉庫に置いてあったし。
 私は在庫の波を見ながら言った。

「これ、全部場所覚えてるんですか?」

「うん。新作出ると、置き場所変わっちゃったりするんですけどねー」

 そう雪村さんが笑いながら言った。

「ま、まじですか……」

 ゲーム機だって種類、あるのに……
 なんだかめまいがしてきた。私、このフロアでやっていけるかな。
 私はまだ受け取りの人が来ないプラモを見つめる。
 攻殻騎士シュリエッタのプラモ。
 さっき幼なじみの赤月君が買いに来たやつ。
 あいつ、まだプラモ作ってるんだな。
 あれは八歳の日。
 赤月君の家に遊びに行って、見せてもらったシュリエッタにでてくる白騎士ユーリアのプラモ。
 
『これ、初めてつくったんだ!』

 って言っていたそのプラモ。

『うわぁ、すごーい』
 
 ロボットなのになんだか女性っぽい細い形のそのプラモを、私は学習机から落っことして壊してしまった。
 その時に言われた「嫌いだ」の言葉は今でも耳の奥に残っている。
 そのあと騒ぎを聞きつけた赤月君のお母さんがやってきて、泣く私たちを慰めてくれたっけ。
 嫌いと言われて私は彼から距離をおいた。
 着かず離れず。
 グループで遊ぶことはあってもふたりで遊ぶことは一切なくなった。
 中高一貫校で高校まで学校、一緒だったから、ほっそい縁が繋がっていた。
 最後に会ったのは成人式の日だった。
 それから八年かぁ……
 懐かしさと胸の奥に残り続ける痛み。
 再会して、赤月君はなんだか嬉しそうだったな。
 二十八歳にもなって八歳の時の事、こんな形で思い出すなんて。
 あの日私はちゃんとごめんなさい、って言ったっけ。
 それさえも思い出せないのに、壊したことと泣き叫ぶ赤月君の様子だけは強烈に覚えていた。
 よみがえった想い出に苦みを感じていると、レジカウンターの向こうから声がかかった。

「ヒスイちゃん」

「あ……」

 帽子をかぶった赤月君が、そこに立っている。
 私は彼の前に立ち、ぎこちなく笑って答えた。

「こ、こんにちは」

「久しぶりだね、ヒスイちゃん。忙しいと思うからこれだけ渡したくって」

 と言い、一枚のメモ用紙を渡してくる。
 受け取らないわけにはいかず、私はその紙を手に取って書かれている文字を見た。
 それは、メッセージアプリのIDだった。
 最後に会ったときはそのアプリ、普通にあったけど私たち、IDの交換、しなかったんだよね。
 私自身、大学生の時にだいぶ連絡先整理しちゃったからグループでしかつながっていなかった人とは誰とも連絡取れなくなったし。
 赤月君は手を振って愛想のいい笑みを浮かべた。

「嫌じゃなければ、連絡ちょうだい」

「あ……赤月君 ……」

 嫌じゃなければ。って言われても。
 どうだろう。
 嫌か嫌じゃないかと言われたらよくわからない。
 まさか異動早々、二十年前の想い出と向き合うとは思わなかったな。
 私はレジ前から去る彼の背中を見つめて、小さく息をついた。