想いはきっと痛くない

「んー? もう、わかんない」


翌日。また、カウンセリング室で一人。

数学のプリントと睨めっこしていた。

定期考査が終わった今。また、新しい単元に入って、より難しくなっていく。

ため息を一つ吐いて、諦めて机に突っ伏した。


そうしてると、ガラッと扉の開く音がした。

その音に、反射的に起き上がった。


「相変わらず、会うたびにプリントには手止まってるな」


その声の主は、当たり前に私の知る人で。

今回の予想は外さなかった。


「……藤堂くん」


振り返ると、予想通り、相変わらず制服を着崩した藤堂くんが立っていた。

私が確認するように名前を言うと、笑って入ってきた。


「何驚いてんの? って、そっか。既読ついてなかったな」


既読?と思い返すと、そう言えば昨日の夜の通知を確認するのを忘れてたことに気が付いた。

そのあと、そのまま寝ちゃったんだった。

そっか、彼からの連絡だったんだ。


「ご、ごめん」

「別に、謝ることのほどじゃないだろ」

「どう、だろう」


わざわざ連絡くれたのに見なかったのは、悪い気がするけど。

でも、彼を見るとほんとに気にした様子もないので、一応もう一度「ごめんね」と一言言った。

それにまた軽く笑ってから「今日は何やってんの?」と向かいの椅子に座った。

いつも通り。昨日、一昨日がまるで嘘のように。
その事実にほっと息を吐いた。

どうかした?とでも言うように彼が私を覗き込む。


「……なんでもない」


なんでもない、わけではないけど。なんか、少しだけ意地になってそう返した。


「ふーん?」


と、彼は少し見透かしたように笑ってきた。

あー、ほんと。彼に毒されてる。なんて、思った。

だって、その笑顔に少し、安心してしまった。


「なんで昨日来なかったの?」


気が付いたらそう口にしていた。

それに気づいて「あ、」と思わず声を零して彼を見ると、少し驚いた顔をしてから優しく笑った。


「悪いって。ただの用事」


そうだったんだ。なんて思ってると「ま、連絡入れたけどな」なんて意地悪く言った。


「あ……ごめん」

「別に、連絡遅かったしな」


お風呂に入る前だったから、九時手前、だったかな。そんな遅くはない、とも言える。

でも、多分気遣い、だからありがとうと返して、さっきの質問に答えてなかったことに気が付いて「数学やってる」と返すした。

ほんのりと聞こえてくる体育祭練習の声。それに反するように静かなこの空間。

それが、昨日とは真逆に、とても心地よかった。


だから……「ごめんね」ともう一度呟いた。

聞こえないと思った。でも、彼には聞こえていたようで「なんで?」と返されてしまった。


「なんでも。この間のこととか、連絡も」


全部。もし、傷受けたなら。もし、嫌な思いをさせたなら。ごめんね。


「……お互い様だろ」


何も気にしない様子でそう返ってきた。

どうだろう。どこまでが嫌なのかとか、わからないし。どれだけ傷ついたかも、私にはわからない。
でも、お互い様。彼から返ってきたのはそうだったから。


「かもね」


それなら、いいんだ。