想いはきっと痛くない

家に帰るまでうだうだ考えた結果、何もしないことにした。


「はぁー……」


家に帰って、ベッドに倒れこむように身を投げる。

今日は、疲れた。なんとなく、そう感じた。特に、何もしてないのに。

そうだ、今日はいつもほど何もしてない。


そんなことを考えてると、下からお母さんの声が聞こえた。


「澪? おかえり。ご飯はー?」

「……食べる」

「そう。……気が向いたら、降りてらっしゃい」

「うん」


下に聞こえてるのか、わからないぐらいの声量で返事をする。でも、お母さんは毎回返してくれてるから、きっと聞こえてる。


そこから数分。また、悶々とベッドに寝転がった後、着替えたり色々して、お弁当を持って下に行った。


「はい。お弁当、ありがとう」

「うん、全部食べられた?」

「うん」


お母さんは、笑顔で受け取ったあと、毎日聞いてる。

一時、信じられないくらい食欲が落ちたことがあったから、かな。


お父さんとお母さんは……中学時代は、言えなかったけど。高校にあがって、もう、一人では対処できなくなってしまったこの性質?を伝えると、深く聞くことなく保健室登校に切り替えてくれた。

通信制高校への転校なども提案されたけど、まだ……もう少しだけ粘ることにした。

相田先生も、保健室の先生も、カウンセラーの先生もいるから。大丈夫。

まだ、可能性は、捨てたくない。


「……何か、あった?」

「え?」


椅子に座ろうとしたところで、お母さんにそう言われた。

そんな、わかりやすい?


「答えたくないならいいし、何もないならいいのよ? ただ、いつもより疲れてるように見えたから」

「……ううん。体育祭練習、始まったみたいだから、放課後少し出れなかったぐらいだよ」


藤堂くんのことは伝えてない。話題に出したこともない。なんとなく、言いづらくて、

それに、素直に言えないのは……中学から変わらないなぁ。

お母さんは「そう、無理しないでね」と、柔らかく言ってから、引き止めてごめんね、ご飯食べな。と促した。


「うん」


気を、遣わせてるのは、わかる。きっと、隠してるのも、バレてる。

そう思いながらも言えないのは、どうしてなのかな。

考えながら、目の前のオムライスを突いた。


食べ終わって、リビングで少しゆったり過ごし、部屋に戻ろうとしたところでドアの開閉音がした。

玄関を覗くとお父さんが帰ってきたところだった。


「おかえりなさい」

「お、澪。ただいまー」

「ん、お疲れ様」


そう、返すとまたお父さんも柔らかく笑った。


「澪もな」

「ありがとう。私、上行くね」


そう、一言伝えて、お父さんへの返事もそこそこに、部屋に戻った。

そこで、また頭に藤堂くんのことが浮かんだ。

明日も……来なかったら。

学校には、いるんだよね。たぶん。
なら……。


「教室、行けば……いるのかな」


そう考えて、一瞬で打ち消した。

行けるわけない。行きたくない。そもそも、会いに来ない、のに会うのはよくない、気がする。
一人納得させるように頷いた。

お風呂、行こうかな……。

さっき、お風呂のドアの音がしたから、お父さんはもう出たはず。

そう思ってたとき、ベッドに投げてあったスマホが鳴った。
ゆっくり手を伸ばして、スマホを手に取るまでにもう一度スマホが鳴った。


「……」


内容を確かめようとスマホを開きかけたとき、お母さんに声をかけられた。


「澪、遅くなる前にお風呂入っちゃいなさい?」

「あ、うん。わかった」


誰かから連絡来るなんて早々ないし、基本何かアプリの通知か、公式のメール。
なら、後でもいいや。

そう思ってスマホをまたベッドに置いて、先にお風呂に入ることにした。

だから、その日、それ以降スマホを見ることはなかった。