想いはきっと痛くない

あれから、毎日放課後は集まって勉強を教え合うことにした。
一日ずつ交換で。


「……ん? ねぇねぇ、ここは?」

「ん? あー、ここは……」


出会って一週間と少し。多分、まだきっと短い。
それでも、私にとっては新鮮だ。


「あー! なるほど。わかった、ありがとう」

「ん」


聞けばすぐにわかりやすく解説を入れてくれて、段々と自力で解けるものも増えた気がする。


「あー……俺、休憩」


少しすると、隣から彼のそんな声が聞こえた。


じめっとした暑さを感じるようになった今日この頃。
夏というにはまだ早いけど、春というのもまた少し違うような気がする、微妙な季節。

多分、もう少しで梅雨入り。

日も、少しずつだけど伸びている気がして、夏の気配を少しずつ感じる。

そういえば、この時期と言えば……。


「藤堂くん、体育祭は出るの?」

「唐突だね」


そう、少し苦笑してから考えるように「んー」と声を唸らした。

休憩って言ったのは彼だし、純粋に気になった。
それに、体育祭でるなら練習も増えるだろうし疲れるだろうから、勉強時間減らすことになるかも。


「梓月は?」


そう言ってこちらを見る彼。


「へ?」


質問で返されると思ってなかったし、それこそ私のことを聞かれるなんて思っていなくて咄嗟に変な声出ちゃった。

私、か。

机に手を伸ばして、指先を見つめる。


「私ー……は、出ない、かな」


足引っ張りたくないし、個人種目で目立ちたくない。
だから、でない。

手をぎゅっと握った。


「……じゃあ、俺も出ない」

「え?」


意外な返答に藤堂くんを振り向く。

すると彼が少し悪い顔して笑いかけてきた。


「一緒にサボらない?」


サボろう?

初めての問いかけに頭の中で繰り返す。


「サボるの?」

「んー? どうせだしさ? 当日は見回りすくなそうだしー」


と、言いながら軽くこちらを見てくる。

サボり……。
え、怒られちゃうんじゃない?


「バレちゃうよ!」

「おぉ、しー。一応図書室ね」

「あっ……」


慌てて口を覆う。

でも、急にそんなこと言われたんだから仕方ない部分もあると思う。
そう思って軽く藤堂くんを睨んだ。

それに気づいた彼が軽く笑う。

ほんと、よく笑うなぁ。


「んで?」


笑ったまま、軽く首を傾げて聞いてくる。


「……」


“サボり”

でも……。


「……ははっ、ごめんごめん」


悩んでたら彼がまた急に笑い始めた。

何?と少し驚いて見ると。


「梓月真面目だもんなー」

「別に真面目じゃ……!」

「まぁまぁ」

「……」


勝手に真面目判定された上に窘められて少し不満げに彼を見ると、今度は優しく笑いかけられた。
でも、また一瞬瞳が揺れた。


「……!」

「……ってことで、この話は終わり」


自分から誘ってきて話し出したのに、そう言って締めた。
でも、続けようとも思わなかったので黙った。


「ほら、時間もあれだし帰るか」

「あ、ほんとだ」


時計を見ればもうすぐ最終下校時。
あんまり遅くなっても部活の子たちと鉢合わせちゃうのでいつも早めに帰る。

彼もノートや筆箱を鞄にしまい始める。


……さっき瞳が揺れたのは、確実で……見間違いなんかじゃない。
気にしない、っていうのは……無理かもなぁ。