魔女ユニティの誤算 ~悪役令嬢の役を降りたら、婚約破棄してきた王子が追いかけてきました~

 絶句するエリアルの前に、公爵が跪き、そっと白い手袋をしている右手に触れる。体を強張らせるエリアルに、公爵はそっと優しく「見てもいいかい?」と語り掛ける。
 尋ねているが、実質、エリアルに拒否権はない。なぜならこれが、公爵が確認したい、と言っていたものの一つだからだ。
 それでもエリアルの意思を聞くのは、夫人同様、公爵も大事に想っている証だった。

 エリアルは返事をする代わりに、白い手袋を自ら外す。ボクも初めて見る、贄の証である痣。

「よかった。バラは咲いているが、それほど大きくないし、輝きも感じられない。自覚症状だけでは心もとなかったが、どうやら杞憂だったようだ」
「私も公……お、お父様の話を聞いて、安心しました」

 その言葉を聞いて喜んだのは、公爵だけではなかった。二人の様子を心配そうに見ていた公爵夫人の顔も、柔らかな笑みに変わった。それは痣の状態だけではないだろう。

「これで安心して、エリアルをカーマイン公爵令嬢として王城に送り出せるよ」
「っ! ありがとうございます!」
「実はエリアルの籍を、抜いていないんだ」
「えっ? で、でも私、この家を出て、平民になったはずではないのですか?」
「いや。念のために抜かずにいたんだ。今回のように、必要な時もあるだろうから、とね。ミルドレッドも戻って来たから、エリアルは義妹ということになるがいいかい?」

 おそらくこの質問は、先日のミルドレッドの件のことを言っているのだろう。ボクがエリアルに伝えている前提で、話をしていることが見て取れた。