ツミキ・パートナー




「……明斗くん」

 翌日、教室に入ってきた明斗くんの袖を引っ張った。

「話が、あるの」


「……昨日のところでいい?」

「大丈夫」

 明斗くんは、さっとカバンを片付けて、私と手洗い場まで向かった。

「それで、京都。話っていうのは」


「えっと、昨日のことなんだけどね、その……―――」

 昨日から練習して、必死に紡ぎ出そうとした言葉は、喉の奥まで出かかって声にならない。


「…………京都がこれを断ったって、僕は京都のヒミツをばらさないから安心して」


「……、え……」

「昨日は、『ヒミツを黙っている代わりに、復讐に協力して』なんて意地の悪い言い方をしてごめん。どうしても京都に頼みたかったから、脅迫するような真似をしちゃったんだ……気にしないで欲しい」

「っ、……」

「弱みを握られたから協力するっていう決断を、京都にさせたくないんだ。どの口が言ってるんだって感じだけどね……とにかく、本当に申し訳ないと思ってる。ちゃんと三年間、ペアとして活動するから、僕の事情は忘れて―――」


「違う!」


 柄にもなく大きな声を出す。
 それは、こんなときにも送られる、私への配慮を蹴飛ばしたかったからかもしれない。


「違うの……私は、明斗くんに、協力したい……」


 …………ああ、違う。私がやりたいことは、伝えたいことは、これだけじゃない……。
 私が、やりたくて、伝えたくて、何よりも目指したいのは―――!!


「私は、明斗くんと、対等でいたい……っ!明斗くんみたいに、私の大切な人みたいに、誰かに誠実でいられる強さが欲しい……!!」


 はあっ、はあっ……。
 私は、かつてないくらいの“本音”の告白に、大した声量でもないのに息切れしてしまう。
 なんて不格好なんだろう。なんて醜いんだろう。
 だけど、それでもいい……―――お願い、私の声。明斗くんまで、届いて……。



「―――京都、ありがとう」

 ふっと柔らかくなった、明斗くんの声。
 そのとき初めて、明斗くんの声が強張っていたことに気がついた。


「誠実だとか、強いだとか……そんなこと言うの、きっと京都だけだよ」

「そんなことないよ。明斗くんは、……」


「忘れた?僕、自分の欲望で復讐なんてしようとする奴なんだよ」


 ―――刹那、現実へ引き戻される。
 明斗くんは復讐をしようとしていて、それは、その相手を傷つけるものだ。
 分かっているようでいて、分かっていなかった。
 そしてその重みを一番理解しているのは、理解できるのは、明斗くんだけだったんだ。


「やめたいと、思った?」

 そう問いかけるその表情は、試すようでいて、僅かに寂しそうな色が滲んでいた。
 放っては、おけない。


「やめないよ。絶対、やめたくない」


 どうして、と驚いた表情の中に、嬉しそうな感情が見え隠れしている。

「だって、私は自分で考えて、やるって決めた。利害のことを考えて、協力したいって言ったわけじゃないの。明斗くんと協力して、明斗くんの目標を達成してみたいと思ったから、協力したいって言ったの」

 はっきりと目を見てそう言うと、徐々に照れくささが湧き出てくる。誤魔化すように、いたずらっぽく笑ってみせた。


「それに……復讐するとき、明斗くんが暴走したら、止める人が必要でしょ?」

 明斗くんもつられて笑う。しばらく、笑いが収まらなかった。



「…………えっ、と……お願いしても……いい、かな?」

 ひとしきり笑ったあと、明斗くんが若干不安そうにして訊いてきた。
 もちろん、答えはとっくに決まっている。


「いいよ。これからよろしくね」


 さっきの誤魔化すための笑いとは違った、とびきりの笑顔を見せた。
 けれど、その後一瞬だけ、背後に重たいものがのしかかったような感触がする。
 私はそれに気づかないふりをして、明斗くんと教室へ戻った。