私の「嫌われ計画」が全部裏目に出ている件

「白崎朔って、学校でなんて呼ばれてるか知ってる?」

翌日、クラスメイトの田中さんが話しかけてきた。

「知りません」

「氷の王子」

「……」

なるほど。言い得て妙だ。

「如月くんたちのバンドのサポートしてるって聞いたけど、大丈夫? 近づきにくくない?」

「……慣れました」

「すごいね凜ちゃん。私、白崎くんに話しかけられただけで固まったよ」

「何を言われたんですか」

「『そこ、私の通り道』」

「……それだけで?」

「目が怖くて」

確かに目は鋭い。でも、慣れると毒舌の中に理屈があることが分かってくる。
放課後、練習室へ。
今日は朔が先に来ていた。キーボードの前に座って、何かを弾いている。音はまだ小さい。メモを取りながら、時々止まって修正して、また弾く。
私は気づかれないように入り口で聞いていた。
静かな曲だった。
派手じゃない。でも、じんわりと胸に染み込むような音。

「聴いてるなら入ってくれば」

気づかれていた。

「すみません」

「謝らなくていい」

「……新曲ですか」

「作りかけ」

「素敵でした」

朔が振り返る。少し意外そうな顔をしていた。

「……ありがとう」

珍しく素直な返事だった。

「こういうの、好きなんですか。静かな曲」

「うるさい曲より」

「なのになんでバンドに」

「バンドだから静かな曲が書けないとは限らない」

「そうですね」

私は荷物を置いて、朔の少し後ろの椅子に座った。

「聴いてもいいですか、続き」

「……好きにすれば」

照れているのかもしれない。顔には出ていないけど。
朔はまた鍵盤に向かった。
さっきより少し大きな音で、曲が流れてくる。
静かで、でも確かに熱のある音楽。
(氷の王子、か)
呼ばれている理由は分かる。でも、解けない氷じゃない気がした。
ただ、溶かすのに必要な温度が、人より少し高いだけで。
そんなことを考えていたら、ドアが勢いよく開いて湊が飛び込んできた。

「朔! 新作シュークリーム! 今日限定! 急いで!」

「……却下」

「なんで!」

「練習中」

「まだ始まってないじゃん!」

「始まろうとしてた」

「凜ちゃん! 一緒に行こうよ!」

「……朔さんの曲が聴きたかったんですが」

「え! そうなの!? じゃあ俺も聴く! 朔、続けて!」

「……」

朔は深く息を吐いた。
でも、弾き始めた。
結局、湊が来てもやめなかった。
それが少し嬉しかった。