私の「嫌われ計画」が全部裏目に出ている件

翌朝、私はノートを一冊用意した。
表紙に「嫌われ計画メモ」と書いて、すぐに消した。誰かに見られたら困る。
改めて「マネージャー業務メモ」と書き直して、ページを開く。
まず現状把握から始めよう。
Silent Crownのメンバーを改めて整理すると──。
如月 想:ボーカル・ギター。強引。距離感がない。なぜか私を名前で呼ぶ。問題レベル★★★★★。
白崎 朔:キーボード・副リーダー。毒舌。人の心を読む。怖い。問題レベル★★★★☆。
桐嶋 湊:ドラム。ぬいぐるみ好き。見た目とのギャップが激しい。問題レベル★★★☆☆。
来栖 蒼:ベース。距離が近い。笑顔が武器。問題レベル★★★☆☆。
総合評価:全員、何かしらおかしい。

「何書いてるの」

「ひっ」

振り返ると、想が私の肩越しに覗き込んでいた。

「なんでもないです」

「俺の問題レベル、五つ星じゃん」

「……見えてたんですか」

「全部」

さすが問題レベル五つ星。

「褒め言葉として受け取っておく」

「褒めてません」

想はにやりとして、私の隣の席に腰を下ろした。本来そこは別の人の席なのだが、その人はどこへ行ったんだ。

「今日の放課後、練習に来られる?」

「……行きます」

「そっか。じゃあ朔に資料渡しといて」

どさっと、書類の束を机に置かれる。

「これは?」

「過去のライブのセットリストとか、大会の申込用紙とか。整理しといて」

「……マネージャーってそういう仕事するんですか」

「そうだよ。他に何すると思ってた?」

「いや、あの、スケジュール管理とか……」

「それもやって」

「全部ですか」

「全部」

にっこりと笑う。
この人の笑顔はたぶん、都合よく使われる武器だ。

「…………分かりました」

「ありがとう、凜」

名前で呼ぶな、と言いたかったが、もう言っても無駄だと悟り始めていた。
放課後、練習室に向かうと、先に来ていた湊がおやつを広げていた。マカロンだ。ピンクと水色と黄色。

「凜ちゃん来た! マカロン食べる?」

「いただきます」

「あ、このピンクのやつ、いちごミルク味でめちゃ美味しいから」

湊はドラマーのくせに繊細な手でマカロンを差し出してくる。

「桐嶋くん、甘いもの好きなんですか」

「うん。なんか問題ある?」

「ないです。意外だと思っただけで」

「よくそれ言われる。クールに見えるらしい」

「……実際どうなんですか」

「全然クールじゃないよ。さっきコンビニで新作シュークリーム見て泣きそうになったし」

「感動したんですか、シュークリームに」

「そう。期間限定って言葉に弱くて」

そっか。それはクールとは対極にある人種だ。

「朔は?」

後から入ってきた蒼が資料を棚に並べながら言う。

「まだ来てない」

「想は?」

「トイレって言ってた」

「じゃ揃うまでちょっと待機だね。凜ちゃん、座って座って」

ソファを勧められ、腰を下ろす。

三人で待っていると、ドアが開いて朔が入ってきた。手に本を持っている。

「鷹宮さん、資料整理できた?」

「今日もらったので、まだです」

「今日中にやって」

「今日中……」

「急ぎだから」

相変わらず笑顔がない。
でも、言葉はちゃんと理由をくれる。それは分かった。

「分かりました。今日中に」

「うん」

朔は本を開いて壁際に立つ。
来栖 蒼がにっこり笑って私に耳打ちした。

「朔、あれで優しいんだよ」

「"急ぎだから"って言ったじゃん。理由教えてくれたってことは、信頼してるってこと」

「それ、かなり好意的な解釈では?」

「そうでもないよ。朔、嫌いな人には理由すら言わないから」

なるほど。
この四人、なかなか複雑だ。
(これは、嫌われるのに時間がかかるかもしれない)
計画の難航を、私はこの時初めて予感した。