放課後、想に連れられて向かったのは、音楽室の隣にある小さな倉庫を改装した部屋だった。
「ここが練習場所」
想がドアを開けると、中から音がした。
ドンッ、という重低音。
「あ、想おかえり。……誰、その子」
声の主は、ドラムセットを前に座っていた長身の男だった。
茶色の髪、涼しげな目元。一見するとクールそうなのに、膝の上にはふわふわのネコのぬいぐるみが乗っている。
「マネージャー候補」
「へえ」
男はぬいぐるみを抱きしめながら、こちらをじっと見た。
「──可愛いじゃん」
「桐嶋。口説くな」
「口説いてないし。本当のこと言っただけ」
桐嶋 湊(きりしま みなと)。後で知ったけど、学年一の長身イケメンとして有名らしい。なのにぬいぐるみ好きとは聞いてなかった。
「で、他の二人は?」
「朔は資料室。蒼は購買に行ってる」
「呼んできて」
「えー、動きたくない」
「桐嶋」
「……はーい」
ぬいぐるみを棚に置いて、のそりと立ち上がる湊。その背の高さに改めて驚く。
残された私と想。
気まずい沈黙。
「あの、私、本当に一週間で──」
「白崎」
私の言葉を遮るように、想が部屋の奥に向かって声をかけた。
いつの間にか、扉のそばに男が立っている。
白い肌に整った目鼻立ち。メガネ。腕を組んで壁にもたれかかり、こちらを静かに観察している。
「……いつからいたんですか」
「最初から」
白崎 朔(しらさき さく)。副リーダーだと後で知った。
「鷹宮さん、だっけ」
「はい」
「マネージャーになる気はないよね、本当は」
──ぞっとした。
この人、なんで分かるんだ。
「そんなことは──」
「目が語ってる。"早くここから出たい"って」
朔はメガネの奥の目を細め、淡々と言う。
「でも来た。想に頼まれたから」
「……それは」
「断れなかったわけじゃなく、断る理由を見つけられなかった。違う?」
正確すぎて返す言葉がない。
「そういう人、嫌いじゃないけど」
「…………」
「使いやすそうだし」
笑顔がない分、褒めてるのか馬鹿にしてるのか全く分からない。
「おまたせ! マネちゃん、よろしくね!」
威勢のいい声とともに扉が開き、購買の袋を抱えた男が入ってきた。
明るい笑顔、くりくりした目。雰囲気が部屋全体を数度上げる感じがした。
来栖 蒼(くるす あお)。ベース担当。
「マネちゃんって」
「だって名前まだ聞いてないし! 何? 可愛い名前だったりする?」
「……鷹宮 凜です」
「凜ちゃん! いい名前〜!」
肩をぽんと叩かれる。距離が近い。でも不思議と嫌じゃない。
「これ食べる? チョコ」
「いいですよ」
「遠慮しないで、凜ちゃんのために多めに買ってきたんだから」
「……まだ来るの知らなかったはずでは?」
「雰囲気で分かった」
この人は何を言っているんだろう。
こうして四人全員と顔を合わせた。
バンドの名前は「Silent Crown」。学内では少し有名らしい。
「じゃ、改めて。Silent Crownのマネージャーよろしく、凜」
想が手を差し出してくる。
握手の形で。
私はしばらくその手を見て、ため息をついた。
「──一週間だけです」
「分かった分かった」
そう言いながら、想は全然「分かった」顔をしていなかった。
(この一週間、絶対に嫌われてみせる)
