私の「嫌われ計画」が全部裏目に出ている件

「お前、今日からうちのマネージャーな」

「……はい?」

朝のホームルーム前、窓際の席で静かに単語帳を眺めていた私の前に、スクールバッグを肩に引っ掛けたまま立っているのは、クラスの頂点に君臨する男、如月 想(きさらぎ そう)。

一言で表すなら。

「面倒ごとの塊」だ。

「だから。うちのバンドのマネージャー。お前がやれ」

「やりません」

「やれ」

「お断りします」

「お前しかいない」

なんで? 見回せばこのクラスだけで三十人はいる。私の斜め前には可愛くて人当たりのいい田中さんだって座っている。

「如月くん、私を指名する理由が全くわかりません」

「お前、地味だろ」

「……は?」

「目立たない。それが条件」

想は私の制服の袖を指先でつまみ、ふわりと放した。

「バンドの顔は俺たちで足りてる。むしろ、裏方が目立ったら困る。だから地味な奴がいい。──お前、完璧だ」

完璧って言葉、そんな使い方があったんだ。

褒め言葉として受け取れない褒め言葉、初めて聞いた。

正直、腹は立っている。立っているけど、否定できないのが悔しい。
私は鷹宮 凜(たかみや りん)、高校二年生。特技は存在感の薄さ。先生にも一年間名前を間違えられ続けた実績がある。

「ちなみに断ったら?」

「困る」

「それだけ?」

「俺が、困る」

お前は何をそんな純粋な顔で言っているんだ。

如月 想は、顔だけは神が気まぐれで作ったような、反則的な美形だ。切れ長の目に、くしゃっとした黒髪。その整いすぎた顔で「困る」と言われると、なんというか──腹が立つ。

腹が立つ、のに。

「……一週間だけです。それ以上は知りません」

私の口は、なんでそんなことを言っているんだ。

想の口角がわずかに上がる。

「言ったな。一週間な」

「だから一週間限定と──」

「あ、あと」

彼は当然のように私の机に手をつき、顔をぐっと近づけてきた。

「名前で呼んでいい? 凜」

「呼ばないでください」

「凜」

「……聞いてます?」

「聞いてるよ、凜」

この人は絶対に嫌われることを知らない生き物だ。

こうして私の、世界一不本意なマネージャー生活が始まった。
一週間で終わらせる。そう誓った。

──でも、そんな計画が全部裏目に出るなんて、この時の私にはまだ知る由もなかった。