私の「嫌われ計画」が全部裏目に出ている件

「来月、小さなライブハウスで演奏する。マネージャーとして動いてほしい」
想が言ったのは、木曜日の放課後だった。
「……いつの話ですか」
「来月の第二土曜」
「一週間の約束は」
「とっくに過ぎてるだろ」
「……」
確かに、気づいたら二週間経っていた。
「辞めたいなら今すぐ言って。でも、凜がいた方がうまくいく」
「……根拠は?」
「勘」
「勘ですか」
「あと、みんなが凜を気に入ってる」
「それと実力は別では」
「凜は、人を安心させる」
「……」
「それがマネージャーに一番必要なことだと思う」
想はあっさり言って、書類を机に置いた。
「改めてお願いします」
「……分かりました」
こうなると分かっていた気がする。
でも、断れない理由も、なんとなく分かっていた。
ライブの準備が始まった。
会場との連絡、当日の機材確認、タイムスケジュール管理。
私はメモ帳に全部書き出して、優先順位をつけた。
「凜ちゃんてきぱきしてる」
湊が感心したように言う。
「やると決めたので」
「かっこいい」
「普通のことです」
「でも嬉しい」
朔は黙って書類を確認して、一箇所だけ赤ペンで指摘した。
「ここの時間、短すぎる。転換に十五分は必要」
「修正します」
「うん」
蒼はセットリストを眺めながら、
「凜ちゃん、この曲順どう思う?」
「私には分からないですが……最初の曲、もう少し入りやすい曲の方がいいかも」
「確かに。想に言ってみる」
想に伝えると、想はしばらく考えて、
「それで行こう」
と言った。
「え、あっさり」
「凜が言うなら正しいと思う」
「……根拠は?」
「勘」
「また勘」
「凜の感覚は信用できる」
「どうして」
「感情じゃなく、客観的に見てるから」
想は私の目を見て言った。
「それ、なかなかできないことだよ」
褒められた。
嫌われるために来たはずなのに。
「……ありがとうございます」
「ありがとうはこっちの台詞」
想は立ち上がって、ギターを手に取った。
「今日、ちゃんと練習聴いてて」
「はい」
「聴き終わったら感想教えて」
「感想ですか」
「正直なやつ」
私は頷いた。
そして初めて、ちゃんとSilent Crownの演奏を聴いた。
──朔が言っていた意味が、分かった気がした。
何かが変わる。
確かに、変わった。
想の声が流れた瞬間、私の中の何かが、静かに動き始めた。