私の「嫌われ計画」が全部裏目に出ている件

月曜日。
蒼が珍しく、練習室の隅で静かにスマホを見ていた。
「蒼さん、どうかしましたか」
「ん? ああ、なんでもない」
笑顔で答えるが、目が笑っていない。
「……本当に大丈夫ですか」
「大丈夫だよ」
また笑う。
私はそれ以上聞かなかった。聞いていい距離感かどうかが分からなかったから。
練習が始まった。
今日は想のギターが、いつもより少しだけ鋭かった。
蒼のベースが、少しだけ沈んでいた。
朔がそれに気づいて、目で確認するように蒼を見た。
蒼は首を横に振った。
(あの二人、何かある)
そう思ったが、私には分からない話だ。
練習終わり。
片付けをしていたら、蒼が残っているのに気づいた。
「蒼さん」
「あ、凜ちゃんまだいたんだ」
「書類の整理してました。そろそろ終わりますけど」
「そっか」
蒼はベースを膝に乗せたまま、ぼんやりしている。
「……聞いてもいいですか」
「何を?」
「さっきから、様子がおかしいので」
蒼は少し目を見開いた。
「気づいてた?」
「なんとなく」
「……俺、そんなに分かりやすかった?」
「笑顔が、いつもと違いました」
蒼がゆっくりベースを壁に立てかけた。
「前のバンド、解散したって連絡が来た」
「……蒼さん、前のバンドがあったんですか」
「中学の時。地元で。まあ、みんな進路がバラバラで自然消滅みたいな感じだったんだけど」
「それで?」
「一人、まだ音楽続けてて。その子がソロデビューするって。プロで」
「……」
「嬉しいんだよ、本当に。でも、なんかちょっとだけ」
蒼は笑った。今度の笑顔は、少し本物に近かった。
「置いてかれる気がして」
「今のバンドは、どうですか」
「Silent Crown?」
「はい」
「……好きだよ。すごく」
「じゃあ、置いてかれてないじゃないですか」
「……そうだね」
「蒼さんはここにいるし、バンドにいる」
蒼はしばらく黙って、ため息をついた。
「凜ちゃんって、不思議だよね」
「何がですか」
「余計なこと言わない。でも、ちゃんと届く言葉を言う」
「……そんな大したことは言ってないですが」
「でも、楽になった」
蒼が笑う。今日一番、自然な笑顔だった。
「ありがとう、凜ちゃん」
「……どういたしまして」
この人の笑顔の裏に、こういうものが隠れているとは思わなかった。
みんな、表に出していない何かを持っている。
そんな当たり前のことを、改めて気づいた夜だった。