宙に舞う
青信号が点滅する道路の真ん中でしゃがんだ。人々はそんな姿を気にかける間も無く通り過ぎてゆく。やがて信号が赤になり、殆どの人が渡りきるところだった。何者かに腕を掴まれ、歩道に引き上げられた。
「おい、迷惑だろ!」
正直どうでも良かった。人に迷惑をかけずに生きていたつもりが、今までたくさんの人にとって迷惑だった。そう、私は生きてるだけで迷惑だ。死んだら、最後に一回だけ迷惑かけて終わることができるから。
「話聞いとんのかゴルァ」
話したくはなかった。話したら泣いてしまいそうだった。「おいお前…」
バレてしまった。右手に持っていた鞄を左手にかけ、そこで初めて彼の目を見る。見覚えのある顔だった。
「お前は覚えてねぇかもだけどよぉ、去年の夏俺お前に助けられたんだ。倒れて動けなかった俺に水買ってくれたんだ。あん時お前がいなかったら、俺、死んでたかもしれない。」
人に迷惑をかけることの方が多かったので人助けをしたことなんて殆ど覚えていない。彼がそっと唇を動かす。
今度は俺がお前を助ける番だ、と。
小さい頃から何故か生きているのが窮屈だった。些細な失敗で面倒くさそうな顔をされるのが辛かったのかもしれない。やがてはっきりと言われるようになった。
「お前の失敗でどれだけの人に迷惑かかるのかわかってんのか?」
「愚痴愚痴弱音吐きやがって。迷惑なんだよ。」
「構ってほしいから弱いフリしてるわけ?迷惑なんだけど。」
「身の回りの整理整頓もできないなんて迷惑だ。弁えて行動しろ。」
「人間として当たり前のこともできないなんて迷惑だと思わないのか?」
「なんで普通のことができない上に迷惑なんだ?」
“迷惑”という言葉にいつしか呪われるようになった。構ってほしいわけでも、アピールをするためでもなかった。ただ苦しくて限界で助けてほしいだけだった。いつしか私は誰にも心を開かないようになった。この人に本音を話してもきっと数日後に噂が広まっていて悪者扱いされる。悩みなんか言って迷惑だと。怖かった。侮辱的な目で見られるとどうしても息が苦しくなった。なんなら死んでしまいたかった。できるだけ笑顔で過ごし、馬鹿なフリをして誰にも迷惑をかけないように顔色を窺って要領が悪い人間にならないように毎日怯えながら過ごしていた。それでも失敗を犯してしまう。もう限界だった。死んだら楽になれる。何も考えなくても良くなる。これが私がかける最後の迷惑だ。そう思いながら道路に飛び込んだ。死ねなかった。邪魔された。怒りすら湧いた。
「…すんなよ」
「あ?なんて?」
「邪魔すんなっつってんだよ!おれは!ずっと!死にたかったんだよ!」
彼の瞳が一瞬大きく見開いた。
「お前…」
言いすぎた。そう思った頃には遅かった。彼は俯いたまま震える声で何かを呟いた。
「…れが…を…っと…俺がもっと早く助けに来てたら。もっと言いやすい環境にできたなら…」
「はぁ?意味わかんないなんであんたが泣きそうになってんの?」
今日ばかりは棘がある言葉しか出ない。いつもの甘ったるい言葉はどこに行ったのやら。次の瞬間、ふわりと温もりを感じた。
「これ以上無理すんなよ。」
思考が停止した。涙が宙に舞った。しばらく目の前の景色を見ることもなくただひたすらに泣き続けた。泣き止んだ頃、ふと綺麗な虹を見た。遠い遠い宇宙の果てまで行けそうな気がした。新しい人生を歩もう。そう吹っ切れた。
青信号が点滅する道路の真ん中でしゃがんだ。人々はそんな姿を気にかける間も無く通り過ぎてゆく。やがて信号が赤になり、殆どの人が渡りきるところだった。何者かに腕を掴まれ、歩道に引き上げられた。
「おい、迷惑だろ!」
正直どうでも良かった。人に迷惑をかけずに生きていたつもりが、今までたくさんの人にとって迷惑だった。そう、私は生きてるだけで迷惑だ。死んだら、最後に一回だけ迷惑かけて終わることができるから。
「話聞いとんのかゴルァ」
話したくはなかった。話したら泣いてしまいそうだった。「おいお前…」
バレてしまった。右手に持っていた鞄を左手にかけ、そこで初めて彼の目を見る。見覚えのある顔だった。
「お前は覚えてねぇかもだけどよぉ、去年の夏俺お前に助けられたんだ。倒れて動けなかった俺に水買ってくれたんだ。あん時お前がいなかったら、俺、死んでたかもしれない。」
人に迷惑をかけることの方が多かったので人助けをしたことなんて殆ど覚えていない。彼がそっと唇を動かす。
今度は俺がお前を助ける番だ、と。
小さい頃から何故か生きているのが窮屈だった。些細な失敗で面倒くさそうな顔をされるのが辛かったのかもしれない。やがてはっきりと言われるようになった。
「お前の失敗でどれだけの人に迷惑かかるのかわかってんのか?」
「愚痴愚痴弱音吐きやがって。迷惑なんだよ。」
「構ってほしいから弱いフリしてるわけ?迷惑なんだけど。」
「身の回りの整理整頓もできないなんて迷惑だ。弁えて行動しろ。」
「人間として当たり前のこともできないなんて迷惑だと思わないのか?」
「なんで普通のことができない上に迷惑なんだ?」
“迷惑”という言葉にいつしか呪われるようになった。構ってほしいわけでも、アピールをするためでもなかった。ただ苦しくて限界で助けてほしいだけだった。いつしか私は誰にも心を開かないようになった。この人に本音を話してもきっと数日後に噂が広まっていて悪者扱いされる。悩みなんか言って迷惑だと。怖かった。侮辱的な目で見られるとどうしても息が苦しくなった。なんなら死んでしまいたかった。できるだけ笑顔で過ごし、馬鹿なフリをして誰にも迷惑をかけないように顔色を窺って要領が悪い人間にならないように毎日怯えながら過ごしていた。それでも失敗を犯してしまう。もう限界だった。死んだら楽になれる。何も考えなくても良くなる。これが私がかける最後の迷惑だ。そう思いながら道路に飛び込んだ。死ねなかった。邪魔された。怒りすら湧いた。
「…すんなよ」
「あ?なんて?」
「邪魔すんなっつってんだよ!おれは!ずっと!死にたかったんだよ!」
彼の瞳が一瞬大きく見開いた。
「お前…」
言いすぎた。そう思った頃には遅かった。彼は俯いたまま震える声で何かを呟いた。
「…れが…を…っと…俺がもっと早く助けに来てたら。もっと言いやすい環境にできたなら…」
「はぁ?意味わかんないなんであんたが泣きそうになってんの?」
今日ばかりは棘がある言葉しか出ない。いつもの甘ったるい言葉はどこに行ったのやら。次の瞬間、ふわりと温もりを感じた。
「これ以上無理すんなよ。」
思考が停止した。涙が宙に舞った。しばらく目の前の景色を見ることもなくただひたすらに泣き続けた。泣き止んだ頃、ふと綺麗な虹を見た。遠い遠い宇宙の果てまで行けそうな気がした。新しい人生を歩もう。そう吹っ切れた。

