腐れ縁なボーイ

砂を蹴る時のザザザって音が好き。


ラケットがボールに触れる時、ガットが擦れる時の音が好き。


暑くて暑くて、汗が目に染みるくらいプレーするのが好き。


私、四門めぐ(よつかどめぐ)は小さい頃からソフトテニスが大好きだった。


ラケットの握り方とか、振り方。ガットの張り方やグリップの巻き方で使う人の好みにラケットをカスタマイズできるから、世界で一本しかないラケットを作れちゃうのも好きなところ。


そんな私が最近打ち込んでいるのが学校の部活動。


もちろん所属はソフトテニス部!


私ももう、中学3年生だからそろそろラストなの。


だから最近になって頑張ろうって思ったり。


「お疲れーめぐ!今日も頑張ろうねー」


「お疲れ様!今日も頑張ろうね!」


この子は私の大切な友達の紘ちゃん。


中学1年生の部活動見学の時に紘ちゃんから話しかけてくれたんだ。


それから仲良くなって今じゃ1番の友達!


いつものように、右手にラケット。左手に水筒とタオルを持って紘ちゃんと一緒にコートに入った。


「お疲れめぐちゃんっ今日も頑張ろうねっ」


……この子は私の大切な友達じゃないー。


「いちいち1オクターブ声上げないでよ圭」


くるっと後ろを向けばやっぱりニコニコの笑顔をした圭と目が合った。


「そりゃ楽しそーにコート入ってきたら真似したくなるだろ」


「普通はならないわよ」


東雲圭(しののめけい)私の腐れ縁と言えるような男。


いつも私のことを馬鹿にしてくる圭とはもう何年もの付き合い。


実は私、ソフトテニスのクラブチームに入っていて圭もそのクラブチームに入っているの。だからよく一緒に行動ようになってしまったのだ。


お母さんたちも仲が良いから結局は離れられない関係かと。


「はいっみんな集合!」


圭と睨み合いながらぐちぐち言っていると部長の声が響き渡った。


珍しい、今日は男女合同練習なのかな?


久しぶりに男子テニスの部長さんの声を聞き背筋を伸ばした。


「よし、みんな揃ったかな?今日はちょっと久しぶりに男女混合ダブルスの3ゲームマッチで戦ってもらおうと思います!」


そういうことか!だから男子と女子が一緒に集合したんだね!


生き生きとしている部長さんを見て私もちょっと嬉しくなった。


だって最近全然試合形式の練習をしていなかったから久しぶりで楽しみ!


ダブルスとは二人一組を作り2対2で対戦する試合形式のこと。


私はシングルス、つまり一人で戦うことが多いからダブルスは新鮮なんだ!


「じゃあペア作ったところはしゃがんでねー」


ペア……ってことは私……。


さっきまでウキウキしていた気持ちが一気にあの男のせいで消え去っていく。


「よろしくね。めぐちゃんっ」


やっぱり、思っていた通り……。


私のペアは圭だった。


さっきと変わらないニコニコの笑顔で私の方に来た圭は私の返事など聞かずにしゃがんだ。


「ほら、めぐちゃんもすわりなよー」


「ちょっ、わっ……!!」


しゃがむもんですかと思っていたが相手は男。


腕を掴まれて強引に座らされた。


わかってはいた。わかってはいたけど……それでもいや!
毎回こういう練習メニューを組まれると私は圭とベアになってしまう。


大体の子たちは女子と女子で組んだり男子と男子で組むのに、私はいつも圭とペア。


「そんなにうれしそうな顔すんなって、ほらボール取ってきてやっから相手見つけてトスしとけよー」


ガチガチに眉間にシワを寄せていた私の顔を見てニコニコしながら圭はボールを取りに行った。


「はーい……」


そうだ、相手……誰か戦ってくれる人たちはいないかな?
急いで立ち上がって辺りを見渡すけど、みんなもう相手を見つけてしまっていてポツンと私一人取り残されてしまっていた。


どうしよう。相手の人たちがいなかったら圭に怒られちゃうよ!


「ねえ、四門さんよかったら俺たちと一緒に試合してくれないかな?」


もう圭とラリーすることを考えだした時、不意に後ろから声をかけてくれた。


「堀さん!」


爽やかな笑顔を向けながらこちらにきてくれた男子ソフトテニス部部長の堀さん。


堀さんも3年生で同い年なんだけど、なんだか歳上な感じが拭えなくて大体の男子テニス部の人はさんさん呼びしている。(まあ圭は例外だけど)


「いいんですか?」


「もちろん!準備とかしてたらもう対戦相手がいなくなっちゃってて、よかったら一緒に試合してくれると嬉しいなって」


「はいっぜひお願いします!」


堀さんのペアの人は雅さんという人。


今はいないから多分堀さんがトスをしに来てくれたんだろう。


それからトスでサーブとレシーブを決めて駆け足で圭のところに戻った。


「圭、こっちレシーブ」


「りょーかい。堀くんはカットサーバーで左利きだから右側守りめで」


「うん。雅さんはオーバーサーブがすごく早いから下がりめだよね」


「そ。めぐちゃん上がりたかったら前衛行って良いからね」


「はーい」


試合前にちょっと作戦会議をして位置につく。


「3ゲームマッチプレイボール」


審判の人の声を合図に試合が始まった。


ソフトテニスの試合は本当は5ゲームとか7ゲームだけど、今回は練習だから3ゲーム。


着々と進んでいく試合。


「ゲームチェンジサイズ」


よし、滑り出しは順調!


「めぐちゃんさっきのボールナイスバレー」


「ありがと」


–––ぱちんっ


コートを移動する間にハイタッチを交わすのもいつものこと。


「ゲームカウントワンゼロ」


次は圭のサーブ。


あ、ちょっと待ってもしかして圭オーバー?


オーバーサーブ。トスを上げて鋭くスイングするサーブ。


しまった……後ろに下がるべきだった……。


圭のオーバーはすごく速くて低い。


だから私が前衛に上がったら圭のボールが当たる可能性があるんだけど。


お願い絶対にサーブ入れて!!


後頭部に意識を向けながら圭がサーブをするのを待つ。


–––ばこんっ


「いたっ」


ものすごい音と共に私の頭は勢いよく揺れた。


対戦相手の堀さんも、雅さんも審判の人さえもみんなして口をあんぐり開けながらびっくりしている。


まさか、本当に当てるなんて……!


「ちょっと圭!」


サーブはもう一回あるから点は取られていないけど、痛いものは痛い。


ズカズカと圭の前まで行って一発殴ってやりたかったけど、試合中ということも考えて思いっきり睨むことにとどめた。


「ごめんごめん」とニヤニヤしている圭だけど。


それからどんどん試合は進んでいき、試合は私と圭の圧勝だった。


「いやーやっぱり二人は強いね。僕たちボコボコにされちゃったよ」


試合が終わったのでネットを挟んで堀さんが話しかけてくれた。


「それより、頭大丈夫?」


「は、はい!大丈夫です!」


「そう?それならよかった」


「じゃあそろそろ行くね。対戦してくれてありがとう!」
と爽やかにはにかみながら堀さんは雅さんを連れて歩いていった。


「って、私の頭にボールを当てた張本人はどこに行ったのよ……」


試合が終わるなりささっとどこかに消えてしまった圭。


試合が終わったら思いっきりグーパンしようと思っていたのだけれど。


ずっと私一人がコートに立っていても仕方がないのですぐにコートから出て圭が戻ってきるのを待つことにした。


それにしてもあのサーブ入っていたらすごくいいサーブだったんだよね。


私が前に行かなかったら絶対サーブ入ってたのに!


あれは私にも比があるかも?と頭を悩ませていると突然頭が一気に冷たくなった。


「さっきはごめんな。痛かっただろ」


「圭、」


やっと姿を現したと思ったら右手に水、左手にスポドリを持って戻ってきた。


多分自販機まで買いに行っていたのだろう。


さっき頭が冷たくなったのは飲み物を当ててくれたからかな?


「この水やるよ。めぐちゃんはスポドリとかよりも水だろ?」


「うん。ありがと」


私の後ろからにょきっと水の入ったペットボトルが出てきてそれを両手で受け取った。


「なーここ暑いし校内入らね?」


「そだね。中の方が涼しいだろうし」


きっと今日の練習はずっとこんな感じだと思うから私と圭は涼みに行くためにコートを出た。





「やっぱりさーめぐちゃんと圭くんのペアやばかったよね」


「うんっ部長も雅君も強いのにあの二人には手も足も出ないって感じだったよ!」


校内に入ると、下駄箱近くで女子三人組が固まってちょうどさっきの試合の話をしているところだった。


これ、あの三人組のところを通らないと中行けないよね……。


ちょうど中に繋がるところで三人が話していたので聞きたいとかではなく会話が自然と耳に入ってきてしまって。


「あの二人まさに最強のペアって感じするよねー」


「本当本当。強すぎてもうラケットが剣に見えてくるのよね」


「わかるー。本当、あの二人仲もいいしもしかしたら付き合ってるとか?」


「そうだったらもう推しカプだな」


そんな会話が聞こうとせずとも聞こえてきてしまって私はつい圭の方を見て眉間にシワを寄せていた。


圭も圭で眉間にシワが寄っていて。


私たちは二人して同じような顔をしてしまっている。


そんなことがわかったらつい堪えられなくて、


「ぷっ」「クスッ」


やばいと直感した私たちは足早に女子三人組の前を通り過ぎた。


よし、見えなくなったかな?と後ろを何回も確認したところで。


「あはははっ私と圭が付き合ってるって」


「さすがにないなくくくっ」


私たちは抑えていたものを一気に吐き出した。


壁側によって二人で向かい合いながら腹を抱える。


過呼吸ですか?と側から見たら思われてしまうほど笑った私たち。


「やばい、腹捩れるほど笑った」


「本当にね」


「久しぶりにこんなに笑ったわ」


「私もだよ。あー笑った笑った」


圭なんて目に涙を溜めながら笑っていたからそれを細長い指で拭いながら歩き出した。


それに続いて私も足を動かした。