続 追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す

 旭はあの頃の夢を見ていた。白藍の泣きじゃくる声が耳について離れない。涙が一筋流れていたのに気づき手で拭いた。

辛い思い出を蒸し返したくはなかった。だが、これは白藍が目の前にいるのだから乗り越えなければならない試練だろうと思えた。

ただ乗り越えればいいのだ。それは白藍との辛い思い出から実りの恋に変わる予感がある。

あれから何時間経ったのだろうかと旭は思った。慌ててスマホを取ると藍からのメールと電話でいっぱいになっていた。

午後6時を過ぎている。急いで電話をかけるとすぐに藍が出た。

「先生、どうしたんですか?何度電話してもかからないから焦りました」
「ごめん。爆睡してた」
「よかった。逃げられたかと思った」
「まさか何で逃げるの?」
「私に嫌気がさしたかと…いえいえ、何でもありません」

笑い声が電話から聞こえると藍は、ほっとした。旭は言う。

「お腹すいた。ご飯食べに行こう」
「はい、すぐに行きます」電話が切れた。

「ちょっと行くってどこに?何切ってんの?」

旭はとりあえず身なりを整えて部屋から出た。ドアを開けると藍が立っていた。

「うわ、びっくりした」
「もう、わざとらしい驚き方やめてください。すぐ行くって言ったじゃないですか。さぁ、行きましょう。」

腕を掴んで旭を引っ張りエレベーターまで行った。引かれる手の感触とこちらを見る笑顔は、白藍の姫と重なる。

この土地に来ると全てが白藍の姫の幻想ではないかと思える。だが、ここにいるのは藍姫そのものだ。

 誰もいない。エレベーターの扉が開いた。藍は旭が入ったのを確認して1階のボタンを押した。旭の方に振り向き微笑み言った。

「何が食べたいですか?」

藍が言い終わるか終わらない間に旭は抱きしめた。優しくて強く包み込むように。まるで消えてしまう前に捕まえているかのように。

「先生、先生、どうしたんですか?」
「少しの間このままで」

戸惑いながらも藍は抱きしめられたまま旭の背中をトントンと子供をあすように優しく叩いた。そうしたのは、何故か憂いを感じたからだ。