続 追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す

 掃除が苦手な藍は旭のために何でもしたいと思えた。母性本能がくすぐられているのだろう。

年下なので母になった気分が味わえていると考えられた。少し楽しい気持ちになる新たな自分の感情が出現したようだ。

キッチン近くを整理しているとプリントアウトした用紙が出てきた。数枚の用紙はクリップに挟まれ小説の案が書かれたプロットのような物だった。

それは乱世の時代の姫君の悲恋の物語で短い文章が綴られていた。まさに旭ならではの切なさを感じ心を掴まれた。

時代小説が初めてだとは思えないしっかりとした内容だった。これはいけると藍は思った。

不思議と切なさが体の奥からリアルに感じられる。まるで体験したかのようだった。

「先生!」

藍は慌てて書斎にいる旭のもとへ走り出していた。旭の目の前に原稿を持って興奮したように話しだす。

「先生、これ凄いです。いつの間にこんないいストーリーを考えたんですか?」
「え、何言ってるの?」

手に持っていた原稿を渡すと旭の顔色が変わった。藍の顔を苦しそうに見たかと思うと目をそらし怒った口調で言った。

「これは駄目だ」
「どうしてですか?こんなにいいストーリーなのに」
「これは大切な物語で歴史には残っていないが、本当にあったことなんだ」
「じゃあ、尚更この一途な思いを皆に知ってもらいましょう」
「本当にそう思うの?」

2人だけの想い出を藍は、まるで他人のことのように話すのが腹立たしかった。生まれ変わり記憶がないとはいえ、その顔で言われると辛いのだ。