勘違いだらけの契約婚

 自分の生活リズムを崩されることに抵抗を覚える人は少なくない。特に、寝る前の時間は一人きりになれるプライベートな時間だ。日頃、部下や使用人に囲まれて生活しているユージーンにとって、一人になれる時間は貴重だ。
 いくら妻とはいえ、いきなり寝室を同じにして精神的負担はないのだろうか。
 すでに書類上は正式に夫婦になっているとはいえ、もともとは赤の他人だ。出会ってからの月日もそこまで長くない。お互いのことをわかり合っているとは、とても言えるような関係ではないのだ。
 そもそも、今までは別の部屋で過ごすのが当たり前だった。もし夫婦の体面を気にして彼が無理をすれば、いずれ体のどこかに不調をきたす恐れがある。
 真面目に夫の健康を心配する妻に、ユージーンは小さく笑みをこぼした。

「侯爵夫人になり、住環境の何もかもが変わったんだ。しかも君は世間の事情に疎く、信頼できる者がいない。そんなときに根掘り葉掘り聞かれても困るだけだ。答えづらい質問だってあるだろう。君がこの場所を落ち着く場所だと思ってくれるまでは自重していた。一方的に距離を近づけるのではなく、君から近づいてくるのを待っていた。しかし、君は俺に全幅の信頼を寄せてくれている。少なくとも嫌いではないだろう?」
「当たり前です! ユージーン様はかっこよくて、頼りがいがあって、気遣いにあふれた、誰よりも素敵な方です。嫌う要素なんて、どこにもありません」