勘違いだらけの契約婚

「……やって、みます。北東あたりでいいでしょうか」
「頼む」

 ユージーンはマントを翻して前に出た。その大きく頼もしい背中を眺めながら、ミリアリアは指先に力を込め、結界の一部をゆるめるイメージを脳内で描く。

「行くぞ!」

 ユージーンが手を掲げた、その瞬間。
 彼の頭上に青白い光が明滅する、巨大な魔方陣が出現した。
 しかもそれが二重、三重と重なり、まるで天蓋のように上空を覆っていく。中心部からは淡い雷光が走り、風と炎が渦巻くように収束し始めた。

裁きの雷槍(ジャッジメントスピア)! 光よ、悪しき龍を貫け」

 詠唱が終わるタイミングを見計らって、ミリアリアは北東の結界を一時的に解放する。と同時に、魔方陣の中心から雷槍が打ち出される。
 閃光が走った。
 まばゆい一閃が空を裂き、結界の隙間を通り抜けて邪龍の喉元を直撃した。刺さった雷槍は内部で炸裂し、邪気を吹き飛ばす。続いて炎の柱が打ち上がり、邪龍を取り囲む。胴体には風の刃が鎖のように絡みついていた。
 ユージーンは指先で印を結び、次々と術式を重ねていく。空中に展開された魔方陣が七重、八重と増える。そのたびに光の奔流が解き放たれ、巨体を容赦なく切り刻んだ。叫ぶ間もなく四肢が引き裂かれ、黒い鱗が鈍い光を放ちながら霧散していく。
 最後の一撃、無数に分裂した光の矢が心臓の核を貫いたとき、邪龍は断末魔を上げることすらできず、崩れるように消滅した。