勘違いだらけの契約婚

 雲の中を泳ぐように、うねりを上げながら空へと伸びていく影。
 蛇よりももっと太くて立派な胴体は、神秘的というより地獄の使者といったほうが合っている。それほどの威圧感を放っていた。

「……嘘、じゃろ……。ああ、こりゃ悪夢に違いない。儂の人生も終いじゃあ……」

 老人は顔面蒼白で、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「一体、あれは何ですか!?」

 だがミリアリアの問いに答えることもなく、老人は呆然としたまま固まっている。恐怖に顔がこわばり、そもそも声が届いていないようだった。

(……それにしても、なんなの、この気配。空気もよどんでいて息苦しい)

 喉を押さえていたミリアリアの耳に、遠くから騎士たちの避難指示を告げる声が届いた。
 その声に呼応するように、領民たちが雪崩のごとく駆け抜けていく。皆、血の気を失ったような顔で、領主の邸を目指して走り去っていく。空気を切り裂くような悲鳴と足音が混じり合い、ただならぬ事態を物語っていた。
 土埃が巻き上がる中、騎士の野太い声がすぐ近くから聞こえてきた。

「何をやっている、君たちも早く避難するんだ! 封印されていた邪龍が復活したんだ。龍の息に触れたら、たちどころに体が腐敗するぞ。やつは昔、死のブレスで多くの人間を殺めたんだ!」