勘違いだらけの契約婚

 カップから立ち上る白い湯気に、ほんのりと花の香りが混じっている。
 ミリアリアの前に置かれたティーカップの内側には、淡い藤色の花が一輪、控えめに咲いていた。白磁に縁取られた銀彩(ぎんさい)がきらりと光り、遠慮がちに咲く花がまるで自分のようだと思えてしまう。
 使用人は準備を済ませると、流れるように退室した。
 サンルームは二人きりになり、マナーを見咎める者は誰もいない。

(……ユージーン様はミルクは入れず、角砂糖を二個入れるのね。意外と甘い物好き? それとも、これが糖分補給なのかしら)

 南向きの半円形のサンルームは全面がガラス張りだ。天井からは暖かな陽光が降り注いでいる。アーチ状の大窓の向こうには、雲一つない青空と緑の芝生が見えた。
 窓辺には常緑の観葉植物がいくつも並べられており、風が吹けば大きな葉がさやさやと揺れた。足元には丸く刈り込まれた低木の鉢が置かれ、奥には小さなオリーブの木が静かに枝を広げている。
 緊張でこわばる手つきのまま、ティーカップの取っ手を指でつまむ。
 そっと口を付けると、思ったより甘い香りが鼻腔をくすぐった。温もりで心がほぐされ、肩の力がゆるゆるとほどけていく。