勘違いだらけの契約婚

「…………」
「閣下は気高いお方。強い志と優しい心をお持ちです。深海で揺らめくタンザナイトのようなその瞳には、確かな意志が宿っています。あなたに出会ってから、閣下の優しさを感じない日はありませんでした。あなたの黒髪は、まるで星々を包み込む夜空のよう。静かで、穏やかで……絹のような艶めきが美しくて、思わず触れてみたくなるほどです」

 うっとりした様子で微笑むと、ユージーンが唇を引き結んだ。
 そのまま無言のまま見つめ合う。無言の圧に、じわじわと余計なことを言っただろうかと脳内で反省する。そんな中、ぽつりと彼が言葉を小さく発した。

「触ってみるか?」
「……えっ」
「俺たちは夫婦だろう。髪ぐらい、好きに触れていい」
「よ……よろしいのですか?」
「ああ」
「で、では……失礼して…………うわぁ……」

 震えそうになる指先を彼の髪に差し込んだ瞬間、つい心の声がそのまま出た。

「なんだ、その反応は。想像と真逆だったか」
「ちちちち、違います! その、あの、天女の羽衣ってこんな感じなのかなと。イメージしていたものよりも、数段柔らかくて手触りがよくて……ずっと撫でていたいぐらいです。閣下の髪ってさらさらで、とっても気持ちいいですね」
「…………」
「閣下? なんだか頬に赤みが差して……はっ! 発熱ですか!? 大変、すぐにお医者様を──」

 ユージーンの武骨な手が、ミリアリアの細腕をつかむ。
 ほとんど力が入っていないので痛くはないが、かといって簡単に逃げることもできない、絶妙な力加減だった。

「呼ばなくていい。頼むから、ここにいろ」
「……はい」

 腕の拘束はすぐにほどかれ、明るい午後の日差しが差し込む部屋で、静かに笑い合った。ささやかな会話が心地よく、時間の流れさえ忘れてしまいそうになる。
 その日、膝枕を長く続けると足が痺れるものなのだと、生まれて初めて知った。