勘違いだらけの契約婚

 感極まって呼ぶと、ユージーンは口元をふっとゆるませた。

「言っておくが、君を監視するつもりはない。実家で窮屈な思いをしてきた分、君にはゆっくり羽を伸ばしてもらいたい。侯爵夫人としての務めはあるが、領地内なら自由にしてもらって構わない。ただ、もし何の書き置きもなく突如姿を消したら、俺は心配になって探すだろう。大事な家族がいなくなったら誰だって心配するからな」
「……家族」
「契約婚とはいえ、俺は君の夫だ。それとも『悪魔に魅入られた子』と呼ばれた俺を、家族とは呼ぶのは抵抗があるか」

 悪魔に魅入られた子という単語は、きっと彼の内面の傷に深く関わる言葉だ。けれど、彼はあえてその忌むべき言葉を使った。
 自分が傷つかないためには、他人と距離を取るのが一番楽だ。似た境遇にいたからこそ、よく知っている。けれど、彼は契約妻を『家族』として内側に入れてくれた。
 ミリアリアに歩み寄ってくれた、何よりの証拠だ。

「そんな……っ、そんなこと思うはずがありません。それをおっしゃるなら、わたくしだって『血塗られし瞳を持つ忌み子』と呼ばれてきました。人間の形をした化け物だと……ずっと虐げられてきました。差別される苦しさに耐えるのは、想像以上につらいことです。ですが、あなたの心は清らかなままです。悪魔に魂を売った人とは明確に違います」