勘違いだらけの契約婚

 翌朝、朝食の席に現れたユージーンに、ミリアリアは一冊のノートを恭しく差し出す。

「おはようございます、閣下。こちら、報告書です」
「……魔力制御の報告書?」
「はい。執事さんにアドバイスをもらったのです。魔力制御のコツを早く習得するには、毎日の記録が大切だと」
「ふむ、それは一理あるな。物事を客観的に見る目を養うのは重要だ。……どれどれ、『閣下の励ましの言葉にて心拍数が上昇。魔力同調の共鳴によるものかもしれない。再測定が必要』『閣下の微笑で空気が揺れる感覚あり。脈拍に乱れあり。魔力密度増加の兆候と推定』……どれも俺のことが書いてあるな」
「閣下はわたくしの守護結界のお師匠様なので、当然かと」

 きっぱりと言い切った後、妙な静寂が流れた。
 ユージーンは伏せ目がちになり、難題を前にしたような思い詰めた表情を浮かべた。左目の下の泣きぼくろが、どこかアンニュイな雰囲気を醸し出している。

(あら……? わたくし、何かおかしいことを言ったかしら?)

 弟子が師匠に報告するのは義務である。契約妻が夫に報告するのも義務である。
 脳内で確認するが、何もおかしいところはない。
 けれど、ユージーンはそうではなかったようで、重いため息が聞こえてきた。見れば、頭が痛いと言ったように額を押さえている。