勘違いだらけの契約婚

「そうだ。曖昧な想起では、すぐに消えてしまう。具現化してそれを維持することを考えれば、身近なものを思い浮かべたほうが効率がいい」

 丁寧な指導に頷きながら、ミリアリアは気合いだけではだめなのだと悟る。

(イメージが大切なのですね。なら、わたくしは……雨をしのげる東屋、かしら)

 脳裏に浮かんだのは、雨の日の思い出だった。
 弟妹が誕生した邸で誰にも必要とされず、部屋の片隅で声を押し殺して泣いていた日々。呪われるという理由で、血の繫がった弟妹に会うことすら許されず、使用人にも空気のように扱われるようになった。不必要な人間になったのだと実感するには十分だった。
 雨の日なら、東屋には誰も来ない。
 冷たい大理石に頬を押しつけ、虚無感に支配されていたとき、決まって現れた一匹の黒猫。何も言わずに寄り添ってくれた小さな命に、ささくれていた心が慰められた。

(あの子を守れるようになりたい……。でも、普通の東屋では横から吹き込む風は防げないわね。雨だって入り込んでしまう)

 あの猫に救われたときの温もりが、今も胸に残っている。
 ふと、胸の奥に小さな光が灯った。