この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

「じゃあ、今日はこの宿にしましょうか! ここなら清潔そうだし、シャルロット様も気に入るでしょう!」

 旅行気分のロゼールが率先して宿を選ぶ。

「ああ、任せた」
「ここなら、あの踊り子のお姉さま方もいないでしょうし! 邪魔する者はいませんね!」
「踊り子……?」

 シャルロットがピクリと反応した。ロゼールはその反応に気づかず、嬉々として話す。

「セバスティア侯爵家に寄る前、宿に泊まったんですけど、下が酒場になってて! そこで飲んでいたら、綺麗なお姉さんに声をかけられて俺たちは浮足だったんですけど、全然相手にされなくて。彼女たちのお目当てはイザーク様だったみたいで、俺たちは振られました!」

 陽気に話すロゼールと対照的にシャルロットの顔が徐々に曇る。
 だが、それに気づいていないのはロゼール本人のみ。

「踊り子のお姉さんなんて、あまりにもイザーク様が魅力的であとを追いかけていったぐらいで――」

 腕を伸ばし、ロゼールの口をガッと塞ぐ。

「黙れ、ロゼール……!!」

 鬼気迫る態度にようやくロゼールは失敗を悟ったようだ。ハッとしたのち、顔が青ざめる。

「で、でも、イザーク様は興味ないと振り切りましたので!!」

 シャルロットに向かい、弁解を始める。
 無言だったシャルロットだが、目をスッと細めた。

「ふうん。私のもとに来るまでに、お楽しみでしたのね」

 棘のある言い方に焦って、両手を振る。

「ち、違う! そんなことは決してない!」
「あら。もてたんでしょ? 本当は嬉しかったでしょう?」

 シャルロットはツンとソッポを向く。

「そんなことは決してない!」

 シャルロットの両肩を抱き、無理やり自分の方を向かせた。

「俺が大事に思っているのはシャルロットだけだ!!」

 思ったよりも大きな声が出てしまったあとにハッとする。
 周囲から注目を浴びていたから。

「えっ……!?」

 顔を真っ赤に染めたシャルロットが、慌て始める。

 キョロキョロと周囲を見回すが、構うもんか。
 今までだったら、こんなこと、口が裂けても言えやしない。ましてや、臣下が見守る中なんて、絶対にごめんだ。

「本当だ。だから、誤解しないでくれ」

 シャルロットの細い体を抱き寄せ、ギュッと抱きしめた。

「わ、わかった、わかりましたから!!」

 腕の中でシャルロットが叫ぶが、このままずっと抱きしめていたい。
 強く力を込めるとシャルロットの体がぴくりと震えた。

 視線を感じた方に顔を向けると、臣下たちが口を手で隠しながらも、興味深そうに見つめている。

 きっと、俺のこんな姿が珍しいのだろう。

「――お前はあとで説教な」

 この一言ですぐに遠い目をしたロゼールは、小さく『はい』と返事をした。

「イザーク!」

 ドンと胸が叩かれた衝撃で手を緩めた。

「もう、なにをやっているの。この宿に泊まるんでしょう? 早くいきましょう」

 顔を真っ赤にしながらも、俺に手を差し伸べるシャルロット。胸に幸せが広がる。
 差し出された手をギュッと握ると、シャルロットはふわりと微笑んだ。

「ここで休んで、明日早く出発しなきゃね」
「なぜ、そんなに急ぐんだ?」

 もとよりゆっくり進むつもりだった。彼女に負担をかけないために。

「それは私が北部に帰りたいからよ」

 少し照れくさそうに言ったシャルロットの顔をまじまじと見つめた。

「だって、冬支度もしないといけないし。街の炊き出しだって気になるわ。それにあなたが留守の間、魔物が襲ってきたら困るじゃない」

 彼女が北部のことを考えてくれていると思うと、胸の奥が温かくなる。

「――だから、早く帰りましょう」

 彼女の手を強く握り、永遠に離さないと誓う。

「ああ、共に帰ろう。俺たちの北部へ」

 シャルロットは優しく微笑んだ。

 これから北部は寒く厳しい冬がやってくる。だが、そんな季節ですら、初めてだから楽しみだと言ってくれた。

 シャルロットとなら、これからの困難も乗り越えられる気がした。

 彼女と過ごす北部での未来を夢見て、優しく微笑んだ。


  Fin

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 お付き合いいただきありがとうございました。  夏目みや