この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

「俺は今まで、彼女にどう接していいのかわからず、自分でも戸惑っていた。だが、これからはシャルロットを第一に考え、すべてにおいて優先すると誓う」

 ドリーはじっと俺の顔を見つめ、口の端を少し上げた。

「そうですか。離れた時間でいろいろ考えなさったようですね。反省したようで、なによりです。これでもう、北部のメイドたちもシャルロット様を蔑ろにする態度を改めるでしょう」

 ドリーの言葉に反論できない。
 実際、メイド間でのことを、ドリーはシャルロットの代わりにずっと怒っていたのだと知る。

「それは俺が悪かった」

 正直に謝罪すると、ドリーは肩をすくめた。
 彼女が信頼しているドリーが側にいるのなら、これから先もきっと頼りになるはずだ。

「イザーク様、こちらも準備が整ました」

 ロゼールが駆け寄ってきた。

「あ、ドリー。久しぶりだね」

 ロゼールの軽い挨拶に、ドリーは視線をチラッと投げた。

「――ロゼール。あなたもよくやったわ」
「あ、そ、そうかな」

 顔を赤くしたロゼールはソワソワと体を揺らす。

「ええ、よくここまでイザーク様に黙って南部まで連れ出してくれたわ」

 にっこり微笑むドリーに、ロゼールはぎくりと肩を揺らす。

「お優しいシャルロット様は、絶対姉君の出産にかけつけるはず、って読みが当たったわ。計画が上手くいったわね」

 その発言を聞き、一連の出来事にドリーも関係していると察した。

 悪びれもなく、あっけらかんとしている。ドリーはシャルロットを第一に考え、俺のことは付属品ぐらいにしか思っていないのだろう。

「お前たち、結託していたのか」

 ロゼールは焦って手を大きく振る。

「で、ですが、こうまでしないとお互いの距離が近づかないと思いまして!」

 ドリーがシャルロットに忠誠を誓ったように、ロゼールは俺に忠誠を誓ったのではないか。主人を裏切るとはなにごとかと思い、深く息を吐き出した。

「いい。今回ばかりは許す」

 側で見ていて、それほどまでに不甲斐ない態度だったのだろう。だからドリーの計画に乗ったのだと思えた。

「結果的にうまくいったのだから、不問にする」
「イザーク様!」

 ロゼールの表情がパッと明るくなる。
 ドリーに関しても、それでも構わない。シャルロットに忠誠を誓ってくれるのなら。

 その時、シャルロットが走って近寄ってきた。

「お待たせしてごめんなさい」
「いや、別れはすんだか」

 シャルロットは優しい笑みを浮かべる。

「ええ、もう出発しましょう」

 行きは馬に乗ってきたが、帰りはシャルロットと共に馬車に乗ることになった。

 馬はドリーが乗って帰ることになった。ドリーが馬に乗れることに驚いたが、どこで技術を身に着けたのだろう。
ドリーは「別に馬ぐらい乗れますよ」と言い、軽々と俺の愛馬にまたがった。

「すごい、さすがドリーね」

 シャルロットはドリーが馬にまたがる姿に感動し、パチパチと手を叩く。

「なんでもできるのですよ、うちのドリーは」

 そんな彼女に褒められたドリーは、その時初めて少しはにかんだ笑顔を見せた。
 そしてセバスティア侯爵家に別れを告げ、馬車に乗り込んだ。

 ***

 これから休憩を取りながら、北部へ戻ることになった。無理せず、途中休憩を取りつつ、戻る予定だ。

 野宿などもっての他だ。第一にシャルロットのことを考えて進む。
 馬車を守るようにドリーが隣で馬を走らせている。

「ドリーはいったい、何者なんだ?」

 常々不思議に思っていたことを口にする。身のこなし、運動神経の良さ、シャルロットにだけ忠誠を誓う姿に、只者ではないと薄々感じていた。

「ええ、ドリーは私が子供の頃、街の裏路地で血だらけで倒れているところを助けたの」
「は?」
「身寄りがなく、どうやら暗殺を生業として生活していたみたい」

 あまりにも驚いて前のめりになる。

「ケガをしていたので、屋敷に連れて帰ったのですわ。年齢も近かったので、お友達になれるかと思いまして」

 普通、危険を察知して、すぐにその場を離れるだろう。護衛はその時、なにをしていたんだ。

「そうしたらいつしか必ず側にいるようになり、今に至りますの」

 シャルロットがあまりにもあっけらかんと口を開くものだから、言葉に詰まった。

「あの時のドリーはすさんだ目をしていましたわ。野良猫みたいな警戒心で、助けたはずの私にもシャーシャーと威嚇して。傷の手当てをして目覚めた時、首にナイフを突きつけられましたもの」

 当時を思い出し、コロコロと笑うシャルロットだが、笑うところじゃないだろう!

「だ、大丈夫だったのか」
「ええ。そこから今の関係に至りますの」

 微笑むシャルロットだが、説明を端折りすぎだ。
 色々聞きたいことはあったが、止めておこう。彼女が納得しているのなら、それで構わない。

 馬車の窓からドリーに手を振るシャルロット。
 気づいたドリーもまた、シャルロットに向かって微笑んだ。

 シャルロットとドリーとの間にある絆をうらやましいとも思うが、それはこれから自分たちも築いていけばいいもの。競うものではない。

 素直にそう思えた。