この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

「シャルロット、抱きしめてもいいか?」

 ウッと言葉に詰まったと思ったら、そっとそっぽを向く。

「そ、そんなことぐらい、許可はいらないわ。ど、どうぞ」

 手を伸ばし、彼女を抱き寄せる。
 温かくてやわらかくて、優しい香りがする。

 心臓の鼓動が聞こえるが、自分のか、シャルロットなのか。区別がつかない。
 ギュッと抱きしめると、シャルロットが小さく息をのんだのがわかった。
 ああ、俺は彼女のために、人生を捧げようと思えた。

「――口づけをしてもいいか?」

 そっと問いかけると、腕の中のシャルロットが身を固くしたのを感じた。
 早急すぎだのかもしれない。
 シャルロットが腕の中でおずおずと顔を上げた。

「そ、そんなことも、いちいち聞かないで」

 ムッと頬を膨らませてはいるが、きっと照れ隠しだ。その証拠に耳まで赤くなっている。
 そんな姿もたまらなくかわいくて、思わず笑顔がこぼれる。

 ゆっくりとシャルロットの頬に手を添える。潤んだ目で見上げる姿が愛しくて、気づけば唇を重ねていた。
 温もりを求め、体を包むとお互いの熱が伝わり、全身が痺れてくる。

 もっと、もっと深く触れたい――。

 無意識のうちに唇の隙間から、シャルロットを求めて侵入していた。
 シャルロットをそれにこたえるかのように、受け止めてくれた。

 全身がとろけるような刺激に息も絶え絶えになる。
 薄目を開けて確認した瞬間、ハッと目を見開く

「シ、シャルロット!?」

 唇をパッと離し、彼女の両肩を抱き、ガクガクと揺さぶる。
 シャルロットは真っ赤な顔で目の焦点がおかしい。

「い、息ができなくて……!」

 その様子を見て、我にかえる。やわらかな唇の誘惑に耐えられず、思わず貪ってしまった自分を恥じた。

「す、すまない」

 彼女の肩をそっと抱き寄せ、胸に寄りかからせる。
 シャルロットが腕の中で荒い呼吸を整えている。大人しく落ち着くのを待った。

 早急すぎたか。
 内心オロオロと動揺するが、必死にそれを隠す。

「ふふっ……」

 腕の中の彼女は小さく笑った。

「私と一緒のベッドも使いたくないぐらい、嫌われていると思っていたわ。初夜の時と、なんにも変わっていないんだなって」
「そ、それは……」

 あの日の自分を今でも殴ってやりたい。

「だからね、さっきも断られた時は、正直ショックだったの。私と同じベッドで眠るのも嫌なのかと思って」

 断じてそんなことはない。

 だが、話あうことが第一の目的だったのに、それもしないまま隣で横になれば、俺の自制心が保てる自信がない。

 理性が崩壊する。
 現に今だって腕の中のシャルロットに触れたくてたまらない。
 クッと唇を噛んで耐える。

「だから、イザークの本心を聞いて嬉しかった、ありがとう」

 腕の中で微笑むシャルロットにたまらなく愛しい感情が芽生える。

「俺の方こそ、意地を張って君を傷つけてしまった、どうしようもない俺を許してくれて、感謝しても足りないぐらいだ」

 過去を思い返すと自己嫌悪に陥る。

「だから、どうか、これから挽回させてくれないか。ずっと側にいてくれ」

 気持ちを伝える前は勇気が必要だったが、一度言葉にしてしまえば、すらすらと口にできた。
 シャルロットは胸に体を預けながら、ふわりと微笑む。
 その笑顔を見れただけで十分だった。願わくば、この笑顔をずっと見ていたいと思ったが、それは俺のわがままだ。

 しばらくこの温もりを味わいたいと思ったが、感情を押し殺す。
 シャルロットを抱きかかえ、立ち上がる。

「えっ……」

 驚いているシャルロットの顔を見つめる。

「もう遅い。今日は疲れただろう。休むといい」

 シャルロットは目をパチクリとさせ、かわいらしく微笑む。

「じゃあ、イザークも一緒にベッドで眠りましょう」

 止めてくれ。どんな殺し文句だ。
 無言でベッドに近づき、そっとシャルロットを下ろす。

 ベッドの端に腰をかけ、彼女の頬をそっとなでた。

「おやすみ」

 まだなにか言いだけだった彼女だが、次第に瞼を閉じた。

 やはり、出産という一大事に付き添い、疲れたのだろう。

 やがて静かな寝息が部屋に響く。

 こんなにも満ち足りた気分になったことなど、あっただろうか。

 彼女の寝顔を見ていると、幸福感で胸がいっぱいになる。

 やがてベッドから立ち上がり、ソファに移動する。

 だが、目が冴え切ってしまい、今夜は眠れそうになかった。