腕を組んだまま、深いため息をついた。
だがもとはといえば、自分の不甲斐なさの結果、こうなったというわけか――。
その時、足音が聞こえ、フッと顔を上げる。
薔薇の咲き誇る茂みから姿を現したのは、シャルロットだった。
「あ、お話し中にごめんなさい」
シャルロットは風になびく髪を耳にかけた。
「ロゼールのことが気になってしまって……」
「シ、シャルロット様あぁぁ」
情けない声を出すロゼールだが、安堵の表情を浮かべている。
「――まだ、話は終わっていないからな、ロゼール」
自分の一言でロゼールの表情が再び固まった。
「イザーク、お父さまとお母さまが視察から帰って来たの」
それは挨拶に行かねばならない。
「行こう」
「ええ」
ロゼールは庭園に放置して、シャルロットと共に屋敷に戻った。
客間に入るとセバスティア侯爵夫妻が出迎えてくれた。
「イザーク殿。はるばる北部からよくぞ来てくれた。私が留守にしていて申し訳なかった」
「こちらこそ、いきなり訪ねてしまい、失礼しました。非礼をお詫びします」
陽気なセバスティア侯爵はソファを勧めたので、シャルロットの隣で腰を下ろす。
「視察先でローズが産気づいたと聞いて、もう気が気じゃなくて。予定を早めて慌てて帰って来たのだよ」
豪快にワハハと笑った顔はどことなくシャルロットに似ていると思った。
「シャルロットがついていてくれて、助かったわ。あの子も心強かったはずよ」
「ああ、そうだな。シャルロット、ありがとう」
次にセバスティア侯爵は俺に向かって頭を下げる。
「快く娘を送り出して下さり、その優しさに感謝いたします、イザーク侯爵」
いや、俺は違うんだ――。
正直に言おうとしたら袖をツンッと引っ張られた。視線を向けるとシャルロットが小さく首を横に振った。
今回の行き違いの件は、黙っていた方が良いのだろう。
俺は黙ってうなずくことしかできなかった。
その時、静かに扉がノックされた。
姿を現したのは、四十代の髪をかっちりとまとめた女性だった。雰囲気と服装からメイド長だろうか。
「失礼します、旦那様、奥様。ローズ様のご出産、おめでとうございます」
「おおっ、来たか」
メイド長の腕の中で大事そうに包まれているのは、小さな赤ん坊だった。
「おお、おお。なんて可愛らしい。目元はセルリアによく似ている」
セルリアとはシャルロットの母、セバスティア侯爵夫人の名前だ。
セバスティア侯爵はそっと腕に赤ん坊を抱き、愛おしそうな眼差しを向けている。
「将来、とんでもない美人になるだろう。今からこんなに可愛くては、求婚者が絶えないだろう」
「あなたったら、その話は早いわよ」
次にセバスティア侯爵夫人は赤ん坊を抱きかかえた。
「まあまあ、はじめまして。あなたのおばあさまよ。会えるのを心待ちにしていたわ」
二人は孫を囲み、目尻が下がりっぱなしだ。
「ローズはどうしている?」
「今はぐっすり眠っておられます」
セバスティア侯爵は返答を聞き、ホッとしたようだ。
「そうか。無事に生まれて良かった」
孫の誕生を喜ぶと共に娘の無事を知り、セバスティア侯爵は安堵した。
「シャルロット、あなたはもう抱いた?」
「ええ、私はお姉さまの次に抱っこできたわ」
分娩に立ち会った時に、すでに抱き上げたのだろう。
「じゃあ、イザーク様も抱いてあげてください、この子を」
突然、セバスティア侯爵夫人に差し出された手に戸惑ってしまう。
「いや、俺は……」
こんなに小さなものを抱きかかえた経験はない。
抱き方も知らなければ、押しつぶしてしまいそうで怖い。隣で微笑むシャルロットは俺の代わりに赤ん坊を受け取った。どうやら代わってくれたようでホッとした。
「はい、両手を広げて」
シャルロットは俺に渡そうとしてくるが、体が強張る。
だがシャルロットは俺の腕にそっと赤ん坊を抱かせた。
温かい、だが、ふにゃふにゃと柔らかくて、どう扱っていいのか、わからない。
「そんな難しく考えなくても大丈夫よ」
シャルロットはこういった場面には慣れているだろうが、初めての自分には難しかった。
小さな赤ん坊は俺の心中を知らず、スヤスヤと眠っている。
――可愛らしい。
その寝顔を見ていると自然と笑顔が引き出されるから不思議だ。
先ほど誕生したばかりの小さな命。皆に祝福される空気は心地が良い。
ジッと見ているとシャルロットが赤ん坊をのぞき込む。
「うふふ。イザークの腕の中は広いから、寝心地が良いのかもしれないわね。大人しく眠っているわ」
「ああ、それなら良かった」
内心では汗をかきながら、返答する。
「イザーク殿もたくさん抱いて慣れておくといい! 次はイザーク殿が父親になる番なのだから!」
セバスティア侯爵の呑気な声に噴き出しそうになる。
だがもとはといえば、自分の不甲斐なさの結果、こうなったというわけか――。
その時、足音が聞こえ、フッと顔を上げる。
薔薇の咲き誇る茂みから姿を現したのは、シャルロットだった。
「あ、お話し中にごめんなさい」
シャルロットは風になびく髪を耳にかけた。
「ロゼールのことが気になってしまって……」
「シ、シャルロット様あぁぁ」
情けない声を出すロゼールだが、安堵の表情を浮かべている。
「――まだ、話は終わっていないからな、ロゼール」
自分の一言でロゼールの表情が再び固まった。
「イザーク、お父さまとお母さまが視察から帰って来たの」
それは挨拶に行かねばならない。
「行こう」
「ええ」
ロゼールは庭園に放置して、シャルロットと共に屋敷に戻った。
客間に入るとセバスティア侯爵夫妻が出迎えてくれた。
「イザーク殿。はるばる北部からよくぞ来てくれた。私が留守にしていて申し訳なかった」
「こちらこそ、いきなり訪ねてしまい、失礼しました。非礼をお詫びします」
陽気なセバスティア侯爵はソファを勧めたので、シャルロットの隣で腰を下ろす。
「視察先でローズが産気づいたと聞いて、もう気が気じゃなくて。予定を早めて慌てて帰って来たのだよ」
豪快にワハハと笑った顔はどことなくシャルロットに似ていると思った。
「シャルロットがついていてくれて、助かったわ。あの子も心強かったはずよ」
「ああ、そうだな。シャルロット、ありがとう」
次にセバスティア侯爵は俺に向かって頭を下げる。
「快く娘を送り出して下さり、その優しさに感謝いたします、イザーク侯爵」
いや、俺は違うんだ――。
正直に言おうとしたら袖をツンッと引っ張られた。視線を向けるとシャルロットが小さく首を横に振った。
今回の行き違いの件は、黙っていた方が良いのだろう。
俺は黙ってうなずくことしかできなかった。
その時、静かに扉がノックされた。
姿を現したのは、四十代の髪をかっちりとまとめた女性だった。雰囲気と服装からメイド長だろうか。
「失礼します、旦那様、奥様。ローズ様のご出産、おめでとうございます」
「おおっ、来たか」
メイド長の腕の中で大事そうに包まれているのは、小さな赤ん坊だった。
「おお、おお。なんて可愛らしい。目元はセルリアによく似ている」
セルリアとはシャルロットの母、セバスティア侯爵夫人の名前だ。
セバスティア侯爵はそっと腕に赤ん坊を抱き、愛おしそうな眼差しを向けている。
「将来、とんでもない美人になるだろう。今からこんなに可愛くては、求婚者が絶えないだろう」
「あなたったら、その話は早いわよ」
次にセバスティア侯爵夫人は赤ん坊を抱きかかえた。
「まあまあ、はじめまして。あなたのおばあさまよ。会えるのを心待ちにしていたわ」
二人は孫を囲み、目尻が下がりっぱなしだ。
「ローズはどうしている?」
「今はぐっすり眠っておられます」
セバスティア侯爵は返答を聞き、ホッとしたようだ。
「そうか。無事に生まれて良かった」
孫の誕生を喜ぶと共に娘の無事を知り、セバスティア侯爵は安堵した。
「シャルロット、あなたはもう抱いた?」
「ええ、私はお姉さまの次に抱っこできたわ」
分娩に立ち会った時に、すでに抱き上げたのだろう。
「じゃあ、イザーク様も抱いてあげてください、この子を」
突然、セバスティア侯爵夫人に差し出された手に戸惑ってしまう。
「いや、俺は……」
こんなに小さなものを抱きかかえた経験はない。
抱き方も知らなければ、押しつぶしてしまいそうで怖い。隣で微笑むシャルロットは俺の代わりに赤ん坊を受け取った。どうやら代わってくれたようでホッとした。
「はい、両手を広げて」
シャルロットは俺に渡そうとしてくるが、体が強張る。
だがシャルロットは俺の腕にそっと赤ん坊を抱かせた。
温かい、だが、ふにゃふにゃと柔らかくて、どう扱っていいのか、わからない。
「そんな難しく考えなくても大丈夫よ」
シャルロットはこういった場面には慣れているだろうが、初めての自分には難しかった。
小さな赤ん坊は俺の心中を知らず、スヤスヤと眠っている。
――可愛らしい。
その寝顔を見ていると自然と笑顔が引き出されるから不思議だ。
先ほど誕生したばかりの小さな命。皆に祝福される空気は心地が良い。
ジッと見ているとシャルロットが赤ん坊をのぞき込む。
「うふふ。イザークの腕の中は広いから、寝心地が良いのかもしれないわね。大人しく眠っているわ」
「ああ、それなら良かった」
内心では汗をかきながら、返答する。
「イザーク殿もたくさん抱いて慣れておくといい! 次はイザーク殿が父親になる番なのだから!」
セバスティア侯爵の呑気な声に噴き出しそうになる。


