幼なじみの救命士は、再会した初恋の私を今度こそ逃がさない 〜拒否権なしの溺愛同居〜

あの後、AEDの使い方も学び、子どもたちが「ありがとーっ」と帰っていくのを、遥希たちが手を振る。
すると一人の男の子が、遥希の側にやってきてポツリと呟いた。

「僕もしょーぼーになれる?」

遥希は屈んで、男の子の瞳を真っ直ぐに見る。

「うん。消防署で待ってるよ」
「だから、パパやママの言うことちゃんと聞いて、なんでも食べておっきくなること」

男の子が丸い目を輝かせながら、何度も頷いた。
遥希が小さく笑うと、男の子が「ありがとっ」と母親の元へかけていった。     
 
実は、イベント中に転んでしまったのを遥希が助けていたのだ。

(こういう人だから、みんな安心できるんだ)

遥希の飾らないヒーローの姿に、芽依子の心がじんわりと温かくなる。   

「やっぱり遥希って、本当にすごい」
「俺一人ちゃうよ。隊のみんながおるからやで」

小さく囁いたはずの声を、遥希が拾い上げた。
気付けば隣に立っている。
芽依子は少しだけ距離を詰め、並んでいる消防車両を眺める。  

「そうだね。遥希たちが最前にいてくれるからだって改めてわかったよ。いつもありがとう」
「芽依子もそうやで。みんなそれぞれの仕事や環境で頑張ってるんやもんな」  

腕を組みながら芽依子を見るのは、一人の消防吏員としての逞しく凛々しい表情の遥希。
それが試験に受かり頑張っている芽依子を、同志として認めてくれてるみたいで誇らしくなる。
と、同時に。

「っっ~も~っいろいろズルい遥希っ」
「ははっ、なんやそれ」
「……今日帰り遅い?」
「片付けとかあるけど、定時で上がりやで」
「そっか、じゃあおうちで待ってるね」
「俺、作るから、風呂掃除頼んでええ?」
「任せて」

芽依子が帰ろとすると、急に腕を引かれ遥希が囁く。

「今日のめい、カッコ良かったで。惚れ直した」

振り返ると、背を向けたまま手を降って去っていく。
芽依子はライトグレーに身を包んでいる後ろ姿に微笑んだ。 

「やっぱり遥希は、あたしの初恋ヒーローだよ」
          
初恋は、恋人になって終わるものじゃなかった。
 
今日もまた、芽依子は新しい遥希に恋をする。
それはまた、遥希も同じこと。
 
晩秋の風が二人の「これから」を、そっと後押しするようにまだ吹き抜けていった。