あれから季節は巡り、約束の「春」がやってきた。
私の体はあの日から少しずつ自由を奪われていたけれど、今日だけは、どうしてもこの目で見たい景色があった。
「……桜、大丈夫か? 風、寒くないか」
川澄くんが、私の膝にブランケットをかけ直してくれる。
私たちは今、満開の桜が夜風に舞う「こぼれ桜まつり」の会場にいた。
ライトアップされた桜は、まるで空から降ってくる光の粒みたいに綺麗で、私の目には世界が少しだけ滲んで見えた。
「綺麗だね、川澄くん。……約束、守ってくれてありがとう」
私の弱々しい声に、川澄くんは私の手をぎゅっと握りしめた。
「当たり前だろ。……来年も、再来年も、俺がずっとこうして見せてやるから」
嘘でも、その言葉が嬉しかった。
私の命の灯火が、もうすぐ消えかかっているのを二人とも知っている。
桜の花びらが、私の肩に、そして繋いだ手の甲に、静かに降り積もっていく。
「ねぇ、川澄くん」
私は最後に出せる精一杯の力で、彼の服の裾を引いた。
彼が顔を近づけた瞬間、私は背伸びをして、彼の唇にそっと触れた。
……温かかった。
生まれて初めて知る、切なくて、甘くて、溶けてしまいそうな温かさ。
最初で、きっと最後になる、私たちのキス。
離れたあとの川澄くんは、今にも泣き出しそうな顔で私を抱きしめた。
「桜……っ。消えるなよ。行かないでくれ……」
彼の胸の中で、私は静かに目を閉じた。
花びらが、激しく舞い踊る。
まるで、私の命を祝福してくれているみたいに。
「川澄くん……。桜は、散ってもね……」
私は、彼の耳元で最後の一言を紡いだ。
「……桜は、生きてるよ」
木から離れた花びらが土に還り、また新しい命を芽吹かせるように。
私が散ったあとも、川澄くんの心の中で、さやかちゃんの笑い声の中で、夏目くんのシュートの軌道の中で、私はずっと生き続ける。
ハラハラと、こぼれ桜が夜闇に消えていく。
けれど私の心は、あの日転校してきたときよりもずっと、温かな光で満たされていた。
私の体はあの日から少しずつ自由を奪われていたけれど、今日だけは、どうしてもこの目で見たい景色があった。
「……桜、大丈夫か? 風、寒くないか」
川澄くんが、私の膝にブランケットをかけ直してくれる。
私たちは今、満開の桜が夜風に舞う「こぼれ桜まつり」の会場にいた。
ライトアップされた桜は、まるで空から降ってくる光の粒みたいに綺麗で、私の目には世界が少しだけ滲んで見えた。
「綺麗だね、川澄くん。……約束、守ってくれてありがとう」
私の弱々しい声に、川澄くんは私の手をぎゅっと握りしめた。
「当たり前だろ。……来年も、再来年も、俺がずっとこうして見せてやるから」
嘘でも、その言葉が嬉しかった。
私の命の灯火が、もうすぐ消えかかっているのを二人とも知っている。
桜の花びらが、私の肩に、そして繋いだ手の甲に、静かに降り積もっていく。
「ねぇ、川澄くん」
私は最後に出せる精一杯の力で、彼の服の裾を引いた。
彼が顔を近づけた瞬間、私は背伸びをして、彼の唇にそっと触れた。
……温かかった。
生まれて初めて知る、切なくて、甘くて、溶けてしまいそうな温かさ。
最初で、きっと最後になる、私たちのキス。
離れたあとの川澄くんは、今にも泣き出しそうな顔で私を抱きしめた。
「桜……っ。消えるなよ。行かないでくれ……」
彼の胸の中で、私は静かに目を閉じた。
花びらが、激しく舞い踊る。
まるで、私の命を祝福してくれているみたいに。
「川澄くん……。桜は、散ってもね……」
私は、彼の耳元で最後の一言を紡いだ。
「……桜は、生きてるよ」
木から離れた花びらが土に還り、また新しい命を芽吹かせるように。
私が散ったあとも、川澄くんの心の中で、さやかちゃんの笑い声の中で、夏目くんのシュートの軌道の中で、私はずっと生き続ける。
ハラハラと、こぼれ桜が夜闇に消えていく。
けれど私の心は、あの日転校してきたときよりもずっと、温かな光で満たされていた。



