体育館の扉を開けると、バッシュが床を鳴らす音と、熱気、そして聞き慣れた応援の声が押し寄せてきた。
「桜ちゃん! こっちだよ、特等席確保しといたから!」
さやかちゃんが、手作りの大きな旗を振りながら手招きしている。そこには『不屈のアイドル・桜』という文字と、私の大好きな猫のイラストが描かれていた。
車椅子を押す川澄くんの手に、ふっと力がこもるのがわかった。
「……大丈夫か、桜。苦しくなったらすぐ言えよ」
「うん。大丈夫。だって、夏目くんの勇姿を見に来たんだもん」
コートの上では、夏目くんがアップをしていた。
いつもはおちゃらけている彼が、今は見たこともないほど鋭い目つきでゴールを見据えている。私たちが席に着いたのに気づくと、彼は一瞬だけこちらを向き、親指をグッと立てて見せた。
「――ピーッ!」
試合開始のホイッスルが響く。
夏目くんの動きは、あの日病室で言っていた通り、本当に別人のようだった。
相手のディフェンスを鮮やか。にかわし、高く跳び上がる。
「いっけえぇぇ、夏目ー!!」
夏目くんが放ったシュートが、綺麗な放物線を描いてネットを揺らす。
「よっしゃあああ!!」
体育館中に夏目くんの叫びが響き、さやかちゃんの振る旗が激しく舞った。
しかし、試合は接戦だった。第4クォーター残り1分。点差はわずか1点。
夏目くんのユニフォームは汗でびっしょりと濡れ、肩で息をしている。その時、彼はふらりとよろけ、膝に手をついた。
「夏目くん……!」
私は思わず、膝の上に置いていた手を握りしめた。
その時、隣にいた川澄くんが、会場中に響き渡るような声で叫んだ。
「夏目! 誰のために勝つか忘れたのかよ!!」
その声に弾かれたように、夏目くんが顔を上げた。
彼は一瞬、客席の私と目を合わせ、不敵に笑った。
「……分かってんだよ、川澄!」
最後のワンプレイ。夏目くんは自らボールを運び、相手の激しいマークを強引に突破した。
時計の針がゼロになる寸前、彼は空中で静止したかのような高いジャンプから、魂を込めたシュートを放った。
ボールが吸い込まれるようにゴールへ落ちるのと、終了のブザーが鳴るのは同時だった。
「逆転……逆転だあああ!!」
歓喜の渦の中で、夏目くんは真っ先に私たちの席へと駆け寄ってきた。
息を切らし、ボロボロになりながら、彼は最高の笑顔で言った。
「見たか……桜。俺、約束守ったぞ。次は……次は県大会だ。お前が学校に戻ってくるまで、何度だって勝ってやるからな!」
私の目から、熱いものがこぼれ落ちた。
「夏目くん、すごかった……。本当にかっこよかったよ」
「……ああ。最高だったぜ、夏目」
川澄くんも、少し照れくさそうに夏目くんの肩を叩いた。
余命なんて言葉、今のこの熱気の中ではどこか遠い国の話みたいだった。
みんなが繋いでくれるこの「今」が、私の止まりかけた時間を、一歩ずつ未来へ動かしてくれている。
「桜ちゃん! こっちだよ、特等席確保しといたから!」
さやかちゃんが、手作りの大きな旗を振りながら手招きしている。そこには『不屈のアイドル・桜』という文字と、私の大好きな猫のイラストが描かれていた。
車椅子を押す川澄くんの手に、ふっと力がこもるのがわかった。
「……大丈夫か、桜。苦しくなったらすぐ言えよ」
「うん。大丈夫。だって、夏目くんの勇姿を見に来たんだもん」
コートの上では、夏目くんがアップをしていた。
いつもはおちゃらけている彼が、今は見たこともないほど鋭い目つきでゴールを見据えている。私たちが席に着いたのに気づくと、彼は一瞬だけこちらを向き、親指をグッと立てて見せた。
「――ピーッ!」
試合開始のホイッスルが響く。
夏目くんの動きは、あの日病室で言っていた通り、本当に別人のようだった。
相手のディフェンスを鮮やか。にかわし、高く跳び上がる。
「いっけえぇぇ、夏目ー!!」
夏目くんが放ったシュートが、綺麗な放物線を描いてネットを揺らす。
「よっしゃあああ!!」
体育館中に夏目くんの叫びが響き、さやかちゃんの振る旗が激しく舞った。
しかし、試合は接戦だった。第4クォーター残り1分。点差はわずか1点。
夏目くんのユニフォームは汗でびっしょりと濡れ、肩で息をしている。その時、彼はふらりとよろけ、膝に手をついた。
「夏目くん……!」
私は思わず、膝の上に置いていた手を握りしめた。
その時、隣にいた川澄くんが、会場中に響き渡るような声で叫んだ。
「夏目! 誰のために勝つか忘れたのかよ!!」
その声に弾かれたように、夏目くんが顔を上げた。
彼は一瞬、客席の私と目を合わせ、不敵に笑った。
「……分かってんだよ、川澄!」
最後のワンプレイ。夏目くんは自らボールを運び、相手の激しいマークを強引に突破した。
時計の針がゼロになる寸前、彼は空中で静止したかのような高いジャンプから、魂を込めたシュートを放った。
ボールが吸い込まれるようにゴールへ落ちるのと、終了のブザーが鳴るのは同時だった。
「逆転……逆転だあああ!!」
歓喜の渦の中で、夏目くんは真っ先に私たちの席へと駆け寄ってきた。
息を切らし、ボロボロになりながら、彼は最高の笑顔で言った。
「見たか……桜。俺、約束守ったぞ。次は……次は県大会だ。お前が学校に戻ってくるまで、何度だって勝ってやるからな!」
私の目から、熱いものがこぼれ落ちた。
「夏目くん、すごかった……。本当にかっこよかったよ」
「……ああ。最高だったぜ、夏目」
川澄くんも、少し照れくさそうに夏目くんの肩を叩いた。
余命なんて言葉、今のこの熱気の中ではどこか遠い国の話みたいだった。
みんなが繋いでくれるこの「今」が、私の止まりかけた時間を、一歩ずつ未来へ動かしてくれている。



