文化祭の大成功から数週間。病状は落ち着いているものの、お姉ちゃんからは「絶対に無理をしないこと」と何度も念押しされて、私は遠足の日を迎えた。
行き先は、大きな水槽がある海辺の水族館だ。
「わあ、すごい……! 本当に海の中にいるみたい」
巨大なトンネル型の水槽を見上げて、私は思わず声を上げた。頭上を悠々と泳ぐエイや、キラキラと光る魚の群れ。青い光に包まれて、自分が病気であることさえ忘れてしまいそうになる。
「桜ちゃん、こっちこっち! クラゲのコーナー、ライトアップされてて超綺麗だよ!」
さやかちゃんが私の手を引いて走ろうとする。
「あ、待って、さやかちゃん……っ」
急に動いたせいか、少しだけ心臓がトクンと跳ねた。足がもつれそうになったその時、後ろからガシッと腕を掴まれた。
「おい、さやか。桜を振り回すなって言っただろ」
低い、聞き慣れた声。川澄くんだ。
「あ、ごめん! ついつい楽しくなっちゃって……」
さやかちゃんが申し訳なさそうに手を離すと、川澄くんは私の腕を掴んだまま、少しだけ厳しい顔で私を見た。
「……大丈夫か?」
「うん、ありがとう。ちょっとびっくりしただけだから」
「お前はすぐ『大丈夫』って言うからな。ほら、これ持ってろ」
そう言って彼が差し出したのは、冷たいペットボトルの飲み物だった。
「これ……?」
「さっき夏目が買いすぎたからって押し付けられたんだよ。やるよ」
隣で夏目くんが「えっ、俺そんなこと――痛っ!?」と何か言いかけて、川澄くんに足を踏まれている。
私たちは、ゆっくりとした足取りでクラゲの展示室へと向かった。
ふわふわと漂うクラゲを見つめながら、川澄くんがぽつりと呟く。
「……春になったら、またどっか行こうぜ。今度は、もっと桜が咲いてる場所とかさ」
来年の春。
お医者様に言われた「余命」の期限。
でも、川澄くんのその言葉は、呪いではなく希望のように私の胸に届いた。
「うん。約束だよ、川澄くん」
青い光の中で、私は彼の少しだけ赤い耳元を見つめながら、心の底から「生きたい」と願った。
行き先は、大きな水槽がある海辺の水族館だ。
「わあ、すごい……! 本当に海の中にいるみたい」
巨大なトンネル型の水槽を見上げて、私は思わず声を上げた。頭上を悠々と泳ぐエイや、キラキラと光る魚の群れ。青い光に包まれて、自分が病気であることさえ忘れてしまいそうになる。
「桜ちゃん、こっちこっち! クラゲのコーナー、ライトアップされてて超綺麗だよ!」
さやかちゃんが私の手を引いて走ろうとする。
「あ、待って、さやかちゃん……っ」
急に動いたせいか、少しだけ心臓がトクンと跳ねた。足がもつれそうになったその時、後ろからガシッと腕を掴まれた。
「おい、さやか。桜を振り回すなって言っただろ」
低い、聞き慣れた声。川澄くんだ。
「あ、ごめん! ついつい楽しくなっちゃって……」
さやかちゃんが申し訳なさそうに手を離すと、川澄くんは私の腕を掴んだまま、少しだけ厳しい顔で私を見た。
「……大丈夫か?」
「うん、ありがとう。ちょっとびっくりしただけだから」
「お前はすぐ『大丈夫』って言うからな。ほら、これ持ってろ」
そう言って彼が差し出したのは、冷たいペットボトルの飲み物だった。
「これ……?」
「さっき夏目が買いすぎたからって押し付けられたんだよ。やるよ」
隣で夏目くんが「えっ、俺そんなこと――痛っ!?」と何か言いかけて、川澄くんに足を踏まれている。
私たちは、ゆっくりとした足取りでクラゲの展示室へと向かった。
ふわふわと漂うクラゲを見つめながら、川澄くんがぽつりと呟く。
「……春になったら、またどっか行こうぜ。今度は、もっと桜が咲いてる場所とかさ」
来年の春。
お医者様に言われた「余命」の期限。
でも、川澄くんのその言葉は、呪いではなく希望のように私の胸に届いた。
「うん。約束だよ、川澄くん」
青い光の中で、私は彼の少しだけ赤い耳元を見つめながら、心の底から「生きたい」と願った。



