少年吸血鬼はハンターの未亡人に愛を捧げる

屋根の無い剥き出しのシートに、昨日会ったばかりの二人……アルフォンス・フォグリアと、執事のルカが乗っている。

ルカが、丁寧にハンドルを回して、ナタリアとベスの横に車を停めた。

「奥様方」

「まあ……あの」

ベスが焦ったように言葉を詰まらせる。

「港まで行かれるのですか、よろしければお送りしましょうか?」

ルカが相手を溶かすための微笑みを放つと、ベスは縦に振るのか横に振るのか決めきれないように首をグラグラと回した。

ナタリアは是非ともお願いしたいと返事をしようとしたが、アルフォンスが先に立ち上がって、ナタリアが何も言わないうちから女二人の荷物を取り上げて座席に乗せる。

「ベス、歩くのは難しいわ、乗せていただきましょう」

ナタリアが有無を言わさぬ口調で言ったが、ベスはまだまごついて彼女のために空けられた座席に乗り込めないでいる。

「あの、実は私は乗り物に乗るとひどく酔ってしまうんです、車を汚してしまわないかと……」

ベスがそう言うと、アルフォンスは助手席から下りてベスをそこに座らせた。

「酔うときは助手席に座るといい、正面を向いていると酔いにくい」

そして、自分はさっさとナタリアの横に座った。

アルフォンスは相変わらずそっぽを向いたまま、ナタリア達を見ようともしない。

少年は昨日と同じく、シンプルなシャツ一枚だけを着た姿だ。

(こうしてみると良いものを着ているわね、使用人の持ち物じゃ無いわ)

 思った通りの淡い金髪と、新緑のようなグリーンアイ、日光が当たった瑞々しい頬がビロードのように輝くのを惚れ惚れとした気分で見ると、ナタリアの胸の痛みは少し遠のいたようだった。

ベスは何とか持ちこたえ、ナタリア達はルカの運転する自動車で港まで送ってもらった。

アルフォンスとルカは港にある輸入雑貨の店に行く所だったそうだ。

船旅は一時間ほどだが、ベスの顔色は、青を通り越して土気色と言えるほどだった。

おかげで、アルフォンスたちの事を追及されずに済みはしたが……。

本人は早めに港に着き充分に休憩が取れたからか「いつもよりは幾分まし」と言ってはいたが、帰りの事を考えると、ナタリアは早くもベスを連れてきたことを激しく後悔していた。

イェーガー家に到着したのは陽が暮れかかった時間帯で、カラッとした空気が心地よく、そのおかげかベスも馬車を途中で降りずに済んだ。