「のんのん先輩、みーっつけた」
振り向いた瞬間、
後ろからガシッと肩を抱かれて、そのまま引き寄せられる。
「……っ!?ちょ、急に何……重いってば!」
「やーだ。先輩が俺のこと無視して歩くのが悪いんっすよ」
軽く笑いながらも、腕は離さないまま。
そのまま周りの男子たちを牽制するみたいに視線を流して、私の耳元に顔を寄せる。
「来ちゃダメですか」
低い声。
一瞬で、空気が変わる。
「……ダメじゃないけどさ」
「それより先輩、さっきから周りのやつらに愛想振りますぎ。
俺、それ見てるだけで心臓痛いんですけど、責任取ってくれます?」
「……っ、責任って、意味わかんないし」
余裕ぶって返そうとしたのに、
頬を指先でなぞられて、言葉が詰まる。
「意味なんてなくていいんです。あいつらの前で見せる営業スマイル、俺の前では禁止っすよ」
肩に回された腕の力が、少しだけ強くなる。
「……俺、ああいう顔させるために隣にいるわけじゃないんで」
低い声。
そのまま、沈黙。
近くて、静かで、逃げられない。
(……なに、この空気)
「……もう、!年下のくせに生意気なんだから」
顔を赤くして抗議すると、
彼は一瞬だけ目を見開いて、
「じゃあ、年下らしくないこと、今ここでしてもいいっすか?」
意地悪そうに、口角を上げた。
「……っ!」
一瞬、息が止まる。
でも、それ以上は来ない。
近いまま、止まる。
「……無理してんなって思って」
ぽつり、と落とされた言葉。
「してないけど?」
「してますよ。分かりやすいっすもん」
「どこが?」
「笑い方」
サラッと言われて、言葉に詰まる。
「全然、楽しくなさそう」
逃げ場がなくなる。
「別にいいじゃん、楽だしさ」
わざと明るく言ったのに、
「よくないです」
即答。
「俺、先輩が笑ってないの、すぐ分かるんで」
まっすぐ見てくる視線に、なにも言えなくなる。
「……なにそれ」
誤魔化すように笑うと、
「先輩って、誰の隣にいても笑うじゃないですか。
でも、俺のときだけはちゃんと笑ってほしい」
ふっと、力の抜けた笑い方。
さっきまでと違う空気に、少しだけ呼吸が楽になる。
