好きになった人は、みんなのアイドルで 2

ーー悠太郎サイド

紬ちゃんに、どうやって言おう。
韓国行くから会えなくなるよって、俺、泣かずに言えるのかな。

デビューするために紬ちゃんに会えない生活を選ばなきゃいけないなんて、本当に悔しい。
でも、アイドルの夢も、諦めたくはない。
ここまで辿り着いたんだ。覚悟はしてただろ。

ピンポーン
チャイムを押すと「はーい」と紬ちゃんの声がする。
ドアが開く。……紬ちゃんだ。
「よっ」
「いらっしゃい」
「……久しぶり」

ドアが閉まると同時に、思わず紬ちゃんを抱き締めた。
腕の中で、紬ちゃんが固まっている。
……びっくりしてる。かわいい。やばい、もう泣きそう。

「ごめん、紬ちゃんに会えてテンション上がっちゃった」
慌てて抱き締めていた手を離して誤魔化す。
「……なにそれ。……ご飯できてるよ。手洗って座ってて」
紬ちゃんの顔が赤い。

ーー
「今日は、ハンバーグでーす!」
豪華な食卓。
バレンタインとはいえ、紬ちゃん張り切ってくれたんだな。
このご飯も、しばらく食べられないのか。

「やば、写真撮ろ」
残しておこう。韓国に行っても、見返せるように。
紬ちゃんが俺の写真を撮ってくるから、俺も撮り返す。
紬ちゃんの色んな顔も、ちゃんと残しておこう。

「やばい、美味い、紬ちゃんのごはん最高すぎる」
ほんと、最高すぎる。紬ちゃん、俺と一緒に韓国に来てよ。

「全部美味い。今日もありがとう」
しばらく言えないかもしれない。ちょっと改まってお礼を言った。
「……喜んでもらえて良かった」

「やばい、美味すぎた、幸せ」
「良かった。お粗末様でした」
「まじで美味かった。店開ける。」
「……悠太郎くんのためなら、いつでも作るよ」
いつでも、か。俺のためなら、いつでも作ってくれるのか。
「うん、毎日でも食べたい」
「毎日来ればいいよ」
紬ちゃんは笑ったけど、俺は多分上手く笑えなかった。
毎日どころか、しばらく会えないかも。ごめん。

「……チョコも作ったんだけど……食べる?」
え、ごはんだけじゃないの?チョコまで?
「え!まじで?チョコもあるの?」

「ハッピーバレンタイン。これからも一緒にいてね」
チョコらしき箱と、大きな袋を渡される。

「え?なに?開けていいの?こっちはなんだろ?」
袋を開けると
「……え」
紬ちゃん、セーター編んでくれたの。
やばい、待って、反則。俺まじで泣いちゃうよ。
セーターを眺めてるふりをして、紬ちゃんから顔を隠して涙を引っ込める。

「紬ちゃん……大好き。」
「……え?」
「これ、編んでくれたんでしょ?やばい、嬉しい。まじで毎日着る。ごめん、嬉しすぎて何も言えなくなっちゃった」
泣きそうになったの、バレてないよな。
かっこ悪いとこ、見られたくない。

「……良かったあ。気に入らなかったかと思った」
「ごめん!そんなわけないじゃん!めっちゃかわいい。嬉しい。毎日着る。」
「毎日着なくていいよ」
紬ちゃんは照れている。

「こっちも開けるね」
「……あ、そっちは自信無い」
箱を開けると、少し形が不揃いのチョコレート。
……多分、一生懸命作ってくれたんだろうな。
料理もパンもプロ級なのに、こういうところで不器用なの、かわいすぎる。

「……ごめん、上手くいかなかったの」
しょんぼりする顔も愛おしい。

「ねえ、紬ちゃん……抱き締めていい?」
何を言ったらいいのか分からなかった。
でも、紬ちゃんのことを本当に好きだと思った。

「……さっきは聞かなかったじゃん」
「……ごめん」

「紬ちゃん、大好き」
「うん、私も悠太郎くん大好き」

早く言わなきゃ。
幸せな時間が長ければ長いほど、紬ちゃんを傷付ける気がした。