「明日の校外学習のこと説明するから、一旦預かってたしおり配ります!」
GW明けの木曜日、気だるさが漂う7時間目のLHR。
その雰囲気を壊すように、見原が明瞭な声を飛ばした。
教卓の下からしおりの束を取り出し、手早く配っていく。
織宮さんから回ってきたしおりを受け取り、一番上の少しシワの入った自分のしおりを取る。
後ろの女子に残りのしおりを回し、ページを軽くめくっていると見原の説明が始まった。
「みんな知ってると思いますけど、行き先は『アクティブベース・シエル』です。…えー、陽光館の最寄りからやと、若葉線に乗って、T駅で降りてちょっと歩けばつきます。」
しおりの2ページにある簡単な路線図を見ながら、見原の説明を右から左に聞き流す。
「笠原、坂倉、寝るな!」
机を叩く、ぱこんと鋭く情けない音で、うっかり寝てしまっていたことにようやく気づいた。
「…すみません」
目を瞬かせながら小声で謝ると、「五月病だかなんか知らんけど、寝るんじゃないよ全く…」と言い残して見原が教卓に戻る。
静かに頭を右に向け、坂倉とこっそり笑い合っていると前の席の彼女――織宮さんの黒い瞳が静かに僕を映す。
ブラックダイヤモンドのような彼女の瞳が、教室の蛍光灯の光を反射して鈍く光を発する。
その光が、僕を世界から引き離して何も聞こえなくさせる。
「明日は暑くなることが予想されているので、水分は多めに…」
織宮さんが僕からすっと視線を外すと、僕の周りに音が戻ってきた。
足許が、夢を見ているようにふわふわと浮いているような気がして、僕はいつまでも現実に戻れなかった。



