「えー、リップ濃いかな?」
「大丈夫っしょ、写真撮ったら薄くなるし」
GW前、最後の登校日である火曜日。
織宮さんとの論表のペアワークから2週間経った1年D組は、普段よりも1.5倍くらい賑やかで、色めいている。
「おはようございまーす」
担任である、推定40代のおばちゃん教師――見原千智が、教室前方の扉を開けて教室に入ってきた。
「みんなわかるよなー?今日は写真撮影なので、C組の人が呼びに来てくれたら私らは中庭に移動します」
ざわつき始めた教室を一刀両断するように、見原が手を叩く。
「えー…写真撮影までの間はご自由にということで…他学年は授業してるから、迷惑にならん程度に立ち歩いてええよ」
その言葉を皮切りに、教室に一気に喧騒が満ちる。
「お前なんもやってへんやん」
その喧騒から逃げるように机に腕を投げ出し、その上に頭を乗せると緋由が僕の顔を覗き込んできた。
「いや、お前は逆に気合い入れすぎ」
普段は寝癖だけ直しましたスタイルの緋由だが、今日はセンター分けになっている。が、湿気に負けたのかセットを失敗したのか、分け目がぺたんとなっていて、絶妙にダサい。
「…と言いたいけど、絶妙にダサいな」
忌憚なくそう言い放つと、「はぁあー?お前ふっざけんなよー」と、緋由が情けなく口を尖らせた。
「あぁー…ねむー…」
右隣から聞こえてきた低い声の方に顔を向けると、きちんとしたセンター分けの悠がガシガシ目を擦っているところだった。
「なんでお前センター分けキマってんねん」
緋由がぼそりとつぶやき、悠の肩を掴んでぐらぐらと彼の体を揺らす。
「…知らんわ。チャッピーにでも聞けよ」
「ふざけんな!」
悠と緋由がじゃれ合っているのを横目に、僕は教室の後ろの連絡黒板を見るふりで女子の集団を視界に入れる。
スマホのインカメ機能を使って前髪を整えたり、鏡とリップを器用に片手で持ってリップを塗り直したり、制服のシワを伸ばし合ったりしている集団から少し離れたところに、飛び地のように彼女――織宮さんがいた。
細く開いた窓から吹き込む風が、織宮さんの漆黒のミディアムヘアを揺らす。
側から見たらなんでもない光景が、映画のポスターのような一瞬が、僕の目に焼きついて離れてくれなかった。



