サクラソウの約束


「おいしそー…ひとくちちょーだい」

「…やだよー。あ、このパンくれるならいーけど」

ふと顔を上げると、僕の前の席で談笑する織宮さんの後頭部と、外はねボブの女子がパンを食べているところが見えた。

玲香(れいか)、やっぱひとくちちょーだい」

織宮さんが手を合わせて拝むふりをすると、クロワッサンを頬張っている女子――仲口玲香(なかぐちれいか)がわざとらしく口を尖らせる。

「ハーゲンダッツ(おご)ってくれるんやったらいいよー」

「全財産3000円のJKにそんなこと言わんといてー」

目の前の出来事をテレビのように遠く眺めていると、誰かが手を叩く音で現実に引き戻された。

笠原(かさはら)ー、生きてるかー?」

坂倉が僕の顔の前で手を振り、織宮さんたちの談笑から彼の手へとぼんやり焦点が合っていく。

「生きてるわ、勝手に殺すな」

何を誤魔化(ごまか)しているのかわからないまま、僕は何かを誤魔化すように弁当の中のふりかけご飯をかき込んだ。