「笠原くん!」
僕が振り返るよりも先に、ローファーの音が近づいてくる。
想像していたよりも至近距離にあった織宮さんの瞳に、図らずも心臓が大きく跳ねてしまう。
「あの、ね…昨日は、助けてくれて、ありがとう」
息を整えながら頭を下げた織宮さんの黒髪が揺れて、彼女の華奢な肩をさらりと撫でる。
「いや、まあ…うん」
『古東中の結羽ちゃんやんな?』
昨日の大学生から織宮さんを引き離すために、僕が咄嗟に発した一言が鮮明にリフレインする。
熱い鍋に触れて手を引っ込める、僕にとってはごく当たり前な、反射のような行動だったのに。
日を跨いでまで律儀に頭を下げる織宮さんが、急にわからなくなってきた。
「また明日ね、笠原くん!」
それだけ言って、満足したかのように織宮さんが踵を返して僕の前から去っていく。
そのままどこかに飛ばされてしまうような、心許ない感覚が僕の胸を撫でる。
「待って!」



